研究課題/領域番号 |
16K08098
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
伊藤 雅信 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (60221082)
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研究分担者 |
加藤 容子 京都工芸繊維大学, グローバルエクセレンス, 助教 (10534373)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トランソポゾン / Pエレメント / 水平伝播 / 転移因子 / 遺伝子導入ベクター / ショウジョウバエ / piRNA |
研究実績の概要 |
トランスポゾンの長期的運命の解明、およびトランスポゾン利用技術の基盤形成のため、平成28年度に引き続き、ショウジョウバエのP因子をモデル系として、以下の成果を得た。 1.新規遺伝子導入ベクターの開発:野外集団中で他のP因子よりも顕著にコピー数が多いことが知られるKP因子の構造に着目して、新たに6種のベクターを構築した。それぞれショウジョウバエ培養細胞に導入したところ、6世代後には安定株中のコピー数に有意な差が生じた。KP因子の3‘側に存在する内部欠失周辺構造が転移後の修復率の向上に寄与し、コピー数が増加した可能性が示唆された。 2.オナジショウジョウバエに侵入したP因子の解析:2003-2015年に樹立された日本各地集団のP因子の構造多型を明らかにした。このうち、福岡集団のゲノムから完全型P因子をクローニングし、挿入位置を決定することに成功した。対馬集団や彦根集団には、高い転移誘導能力を持つP系統が見られ、キイロショウジョウバエと同様、温度感受性(29℃以上)のメス不妊を高頻度で誘発することを示した(Yoshitake et al., 論文投稿中)。 3. P因子の転移制御とpiRNAの関連調査: P因子の転移誘導と転移制御の能力に様々な変異を持つショウジョウバエ系統を用い、P因子の転移制御は、卵の細胞質に蓄積するある種の小分子RNAの量により決まることを明らかにした(Wakisaka et al., 2017)。また、この小分子RNAの生産には、オス親ゲノムに由来するP因子が大きく関与することを示した(Wakisaka et al., 2018)。 4.福島第1原発事故が周辺生物に及ぼす遺伝的影響の調査に関連して、福島周辺のキイロショウジョウバエ集団のP因子活性を調査した。福島集団の突然変異率にP因子の影響は検出されなかった(Itoh et al., 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.新規遺伝子導入ベクターの開発: これまでの3種に加え、さらに6種の新規ベクターを構築した。ショウジョウバエ培養細胞を利用したシステムにより、これらベクターの特性を、離脱と修復の2段階に分けて検証した結果、KP因子の3‘側の構造が高い修復効率の原因である可能性が示された。この結果が、平成28年度にショウジョウバエ個体において得られた知見と矛盾しないか、検証実験を進めている。 2.P因子の構造崩壊の解析: 既存のオナジショウジョウバエ系統のゲノムに、多数の完全型P因子と内部欠損によって生じた不完全型因子を確認した。日本集団に侵入(2008年以前と推定される)して以来、P因子が盛んに転移していることが示唆された。しかし、オナジショウジョウバエには、キイロショウジョウバエのゲノムで高い占有率を示すKP因子は、検出されなかった。また、その他の不完全型因子の中にも、高い占有率を示すものはなかった(Yoshitake et al., 論文投稿中)。一方、キイロショウジョウバエのKP因子をオナジショウジョウバエ個体に導入することに成功した。転移因子の構造崩壊における宿主特異性の検証に重要な進展となった。 3.P因子の転移制御メカニズムの解明: P因子の転移誘導と転移制御に関する変異系統を用い、次世代シーケンスの解析手法により、野外個体におけるP因子の転移抑制における低分子RNA(piRNAS)の重要性(Wakisaka et al., 2017)、および、これまであまり注目されていなかったオス親ゲノムに由来するP因子のpiRNAS蓄積状態への関与(Wakisaka et al., 2018)を示すことができた。 4.上の項目3の成果は2報の論文として公表した。項目2と3の成果はそれぞれ、日本遺伝学会第89回大会、日本分子生物学会(2017年度生命科学会合同年次大会)で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1.新規遺伝子導入ベクターの開発: (1)平成29年度に引き続き、ショウジョウバエ培養細胞を用いて、これまでに作成した6種の新規ベクターの長期間(10から20世代程度)におけるコピー増加と安定性に関して比較・検証する。(2)これまでに得られたショウジョウバエ個体、および培養細胞を用いた実験の結果を総合し、高い導入率と長期安定性に関与するP因子ベクターの構造上の特徴を特定し、遺伝子導入の簡便化に貢献できる高性能新規遺伝子導入ベクターの構築を試みる。おもに分担者が担当する。 2.P因子の構造崩壊の解析: (1)平成29年度に引き続きオナジショウジョウバエ野外集団をさらに広範囲に調査し、オナジショウジョウバエにおける雑種劣性の表現型と構造多型の関連を解明する。同時に、日本列島への侵入経路や動態を解析し、トランスポゾンの進化戦略の理解を深める。(2)当初計画したキイロショウジョウバエの導入P因子の解析は、既存の保存系統(1950年代、1980年代、2010年代に繰り返し樹立された滋賀県彦根市集団)の調査に変更し、染色体の特定座位に挿入したP因子の、同一地域集団における長期安定性の検証を試みる。必要系統はすでに取得済みである。おもに代表者が担当するが、野外個体の採集は一部研究者コミュニティの協力を仰ぐ。 3.得られた結果を総合して、トランスポゾンの長期的運命について水平伝播と構造多型の観点から考察する。また、トランスポゾン利用技術の一環として新規遺伝子導入ベクターを提案する。これらの成果は、日本分子生物学会、日本遺伝学会などで発表するとともに、所属大学HP(http://www.bio.kit.ac.jp/)などを通じて広く公表する。また、平成30年度中に適当な学術雑誌への論文発表を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:投稿論文の受理が遅れ、予定していた掲載料を使用できなかったため。 使用計画:次年度使用額¥51,927は、平成30年度予算とともに物品費として平成30年4月中に執行する。
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