研究実績の概要 |
トランスポゾンの水平伝播後の動態を解明するため、日本各地のオナジショウジョウバエ集団におけるトランスポゾンP因子の構造とコピー数などを明らかにした。P因子が水平伝播直後に盛んに転移し、構造崩壊が進行していることが明らかになった。オナジショウジョウバエには、大きな占有率を示す不完全型因子は検出されなかった。対馬集団や彦根集団には、高い転移誘導能力を持つP系統が見られ、キイロショウジョウバエと同様、温度感受性のメス不妊を誘発することを示した(Yoshitake et al., 2018)。トランスポゾンの水平伝播はこれまで考えられたより頻繁に起きており、水平伝播後は極めて速やかに遺伝子プールに拡散することが示された。 トランスポゾンと宿主細胞の進化的競争関係の理解を目指し、P因子の転移誘導と転移制御の分子機構について調査した。P因子の転移制御は、卵の細胞質に蓄積する小分子RNA(piRNA)の量により決まることを明らかにした。また、この生産にはオス親ゲノム由来のP因子が重要な役割を果たすことを示した(Wakisaka et al., 2017, 2018)。 福島第1原発事故が及ぼす遺伝的影響の調査に関連し、福島周辺キイロショウジョウバエ集団の逆位染色体頻度、およびP因子の転移活性を調査した。福島集団では、新規および全地球偏在型逆位染色体の頻度は、いずれも2011年以降大きく変動しておらず、放射線被曝によるP因子の転移活性化は検出されなかった(Itoh et al., 2018)。 新規遺伝子導入ベクターの開発のため、キイロショウジョウバエで顕著にコピー数が多いKP因子の構造に着目した。6種類の新規ベクターを構築し、ショウジョウバエ個体、および培養細胞に導入したところ、KP因子3‘側の内部欠失周辺構造が転移後の修復率の向上に関与する可能性が示唆された。
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