研究実績の概要 |
前年度までに、パイナップルコナカイガラムシの性フェロモン成分の構造を(anti-1,2-ジメチル-3-メチレンシクロペンチル)アセトアルデヒドと決定した。この新規物質はカイガラムシ類のフェロモンとしては前例のないアルデヒド化合物であり、このグループのフェロモン・コミュニケーションの進化を議論する上で非常に重要な発見であった。本年度は、鏡像体選択的な有機化学合成とキラルカラムを利用した液体およびガスクロマトグラフィーによる化学分析を併用して、天然フェロモンの立体配置を(1S,2S)-(-)-(1,2-ジメチル-3-メチレンシクロペンチル)アセトアルデヒドであることを明らかにした。野外パイナップル圃場でのトラップを利用した生物検定の結果、(1S,2S)-(-)-体(天然物型)のみに誘引活性があり、(1R,2R)-(+)-体には活性がほとんどないことも明らかにした。パイナップルコナカイガラムシのメスのフェロモン生合成は厳密に制御されており、オス成虫もそれに応じた高選択的な反応性を持つことが示された。さらに、ガスクロマトグラフィーによる分析で、メス成虫のフェロモン生産量を経時的に測定したところ、一日のうちごく限られた時間(明期前半)にしかフェロモンを生産しないことも明らかとなった。また、交尾を経験したメス成虫は全くフェロモンを生産しなかった。これらの事実は、フェロモンの生産が潜在的なコストを孕むことを示唆している。このフェロモン生合成に関わる分子基盤を解明すべく、トランスクリプトーム解析および機能解析を推進している。
|