研究課題/領域番号 |
16K08103
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
田端 純 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 本部, 上級研究員 (20391211)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 化学生態学 / 性的対立 / フェロモン |
研究実績の概要 |
平成29年度までに、パイナップルコナカイガラムシDysmicoccus brevipesの有性生殖系統のメス成虫が放出する性フェロモン成分が 、(1S,2S)-(-)-(1,2-ジメチル-3-メチレンシクロペンチル)アセトアルデヒドであることを解明した。また、この成分は日出後のごくわずかな時刻に限って放出されること、さらにメス成虫だけで繁殖する単為生殖系統では全く生産されないことを明らかにした。平成30年度に、コナカイガラムシのメス成虫のフェロモン生産性をより詳細に調査したところ、交尾を経験したメス成虫ではフェロモン生産が急激に抑えられることが判明した。これらの結果は、フェロモンの生産には生理的あるいは生態的なコストを要することを示唆する。一方で、未交尾のメス成虫は老齢個体でも交尾適齢期の個体と同等以上の量のフェロモンを放出し、オス成虫を誘引した。老齢個体では、代謝をサポートする共生細菌類がすでに減少しており、産卵能力はほとんど失われているため、フェロモンの量や信号としての強度は、メスの潜在的な産卵能力と必ずしも一致しない。これらの結果は、コナカイガラムシのフェロモンをめぐる性的対立が存在することを強く示唆する。このように、特殊な生態と極端な雌雄二型をもつコナカイガラムシのフェロモンには複雑な進化的圧力が作用していると考えられる。また、フェロモン生産の生化学・分子生物学的背景を解明するために必要な、フェロモン前駆体や関連化合物を合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験材料の管理・維持は問題なく実施できた。構造決定した天然化合物の有機合成や、生理・生化学実験も順調に進めており、フェロモン生産性を制御する生理条件を解明する等、一定の成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
生理・生化学実験や行動解析をさらに推進するとともに、トランスクリプトームの再解析も実施し、フェロモン生産性の制御機構を解明する。また、平行して野外での材料採集や観察を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
行動実験等に必要なフェロモン化合物等を有機合成するための消耗品費等を計上していたが、研究室にストックされた中間合成化合物を利用する新規手法等を活用した結果、経費を削減することができた。そこで、この分の予算を有効活用して、当初計画にはなかったフェロモン類縁体等の合成を次年度に実施し、これらの物質の生理活性を解明する。これにより、本研究のターゲットであるカイガラムシ類のフェロモンの進化を議論する上でより発展的な知見が得られると期待できる。
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