研究実績の概要 |
前年度までに、パイナップルコナカイガラムシDysmicoccus brevipesの両性生殖系統の性フェロモン物質を単離し、その構造を(1S,2S)-(1,2-dimethyl-3-methylenecyclopentyl) acetaldehydeと決定した。一方で、単為生殖系統では、この物質の生産性が完全に失われていた。この事実は、コナカイガラムシ類ではごく近縁な関係であってもフェロモン生産性が大きく異なる場合があることを示す。 そこで、最終年度は、パイナップルコナカイガラムシを含む10種を対象として、フェロモンに関する系統種間比較を行った。その結果、フェロモンの化学構造の類似性は、コナカイガラムシ類の種としての系統関係を全く反映せず、跳躍的な進化が何度も独立して生じたことが示唆された。例えば、パイナップルコナカイガラムシのフェロモンの炭素骨格は特殊な5員環であるが、このような構造は最近縁種のバナナコナカイガラムシDysmicoccus neobrevipesを含むセスジコナカイガラムシ属Dysmicoccusには見られず、系統的に離れたクワコナカイガラムシ属Pseudococcusに多く見られることが分かった。また、この過程で、クワコナカイガラムシ属の1種(Pseudococcus baliteus)から、パイナップルコナカイガラムシのフェロモンと比較的よく似た5員環構造の新規フェロモン物質2-((S)-1,2,2-trimethyl-3-cyclopentenyl)-2-oxoethyl (S)-2-methylbutyrateを発見した。 これらの一連の研究結果から、コナカイガラムシ類のフェロモンは非常に強い選択圧に晒されていると考えられる。本研究により、昆虫の性的コミュニケーションの進化を解き明かす上で、このグループが重要なモデルとなり得ることが示された。
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