本課題はヒメトビウンカに感染し、宿主の生殖様式を操作する2種の共生細菌スピロプラズマとボルバキア、さらにイネ縞葉枯ウイルス(RSV)が相互にどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的とした。 まず、スピロプラズマがヒメトビウンカに及ぼす正の影響を明らかにするため、スピロプラズマとボルバキアの二重感染系統と、ボルバキア単独感染系統、スピロプラズマ単独感染系統、どちらにも感染していない非感染系統を、テトラサイクリン処理により作出した。これらの系統の幼虫期間、成虫寿命、生涯産卵数および殺虫剤抵抗性を比較した結果、スピロプラズマの感染が生涯産卵数に対して負の影響を及ぼすことが示唆された。このスピロプラズマの負の影響はボルバキアが共存する場合に、共存しない場合に比べて弱められていた。そこで、二重感染系統およびスピロプラズマ単独感染系統の若齢幼虫~成虫にかけてのスピロプラズマ感染密度の推移をリアルタイムPCRによって定量した結果、老齢幼虫期以降は二重感染系統のスピロプラズマ密度が単独感染の場合に比べて顕著に抑制されていることが明らかとなった。この結果は、異なる生殖操作戦略を持つこれら2種の共生細菌間で競合が生じていることを示唆している。 RSV保毒系統として継代飼育している系統を用いて、保毒虫を放飼するイネの播種後日齢、および保毒虫の日齢や放飼期間の検討を行ったが、いずれも伝播は確認できなかった。そのため、野外からRSV感染イネ株を採取し、そこへスピロプラズマ・ボルバキア二重感染系統の幼虫を放飼した。その結果、RSV保毒二重感染系統の作出に成功した。現在はRSV保毒二重感染系統から、テトラサイクリン処理によりスピロプラズマ単独感染系統および非感染系統を作出済みである。今後はこれらの系統を用いて感染実験系を確立し、各共生細菌がRSVの伝播に及ぼす影響について明らかにしていく予定である。
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