研究課題/領域番号 |
16K08106
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
陰山 大輔 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (60401212)
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研究分担者 |
佐原 健 岩手大学, 農学部, 教授 (30241368)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ボルバキア |
研究実績の概要 |
昆虫の共生細菌ボルバキアは、オス殺し、メス化、細胞質不和合、単為生殖化など、様々な方法で、自分の都合のいいように宿主の生殖を操作していることが分かっている。今回着目したボルバキア系統wFemに感染されたキタキチョウは、wFemに感染していないオスと交配して、メスのみの子孫を残す。これらのメスの性染色体構成はZ0であることが、染色体FISHと次世代シークエンス解析から明らかになった。これらZ0メスが産下する卵(接合体)の遺伝子型はすべてZ0であり、塩基配列の多様性を解析することにより、これらの卵が持つZ染色体は父親由来のものであることが分かった。また抗生物質を産卵前の成虫メスに投与することにより、Z0とZZの卵が生じた。ことから、ボルバキアwFemは、宿主に働きかけ、Z染色体が次世代に伝わらないように作用していることが窺えた。Z染色体の母系伝達阻害の仕組みとして、(1)メスにおけるマイオティックドライブの可能性(減数分裂時にZ染色体を持つ娘細胞が選択的に極体に放出される)と(2)メス由来のZ染色体のみが消失する可能性が考えられた。抗生物質処理の結果、産み落とされた卵を育てると、十分に抗生物質の効果が現れたものについては、成虫時にオスのみとなった。これらのオスの性染色体構成を、Z染色体上の遺伝子をターゲットとしたリアルタイムPCRと塩基配列の多様性解析によって推定したところ、1個体を除いてすべてZZ型であることがわかった。このことから、ボルバキアなしの状態では、ほとんどのZ0個体は生存(あるいは成長)できないと考えられる。重要な内容について国際誌に原著論文として出版することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、染色体の遺伝・性決定遺伝子を、ボルバキアがどのようにして操作しているかについての全貌解明については、大枠では達成できた。現段階での最も大きな成果については、進化生物学における重要な専門誌であるEvolution Lettersに掲載することができた。さらには培養細胞を用いた実験系を構築するなど、本課題終了後も大きな発展が期待できる成果も出ており、おおむね順調に進展していると考えられる。トランスクリプトーム解析については、予算を大幅に必要とするため、翌年に持ち越して、サンプルを一気に解析することによって安価に行う計画にしたが、計画通りの成果が得られる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
産卵前のメス成虫(wFem感染個体)に抗生物質を投与することによって、たくさんの間性個体(雌雄の形質を併せ持った個体)が出現する。トランスクリプトーム解析(RNAseq)によってこれらの個体を調査することによって、ボルバキアによってどのような遺伝子の発現が影響を受けているのかを明らかにし、生殖操作の分子メカニズム解明への糸口をつかむ。
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次年度使用額が生じた理由 |
トランスクリプトーム解析については、予算を大幅に必要とするため、次年度に持ち越して、サンプルを一気に解析することによって単価を安く行うことにしたため。次年度使用額については、トランスクリプトーム解析によって消化される見込みである。
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