研究課題/領域番号 |
16K08107
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
加来 伸夫 山形大学, 農学部, 教授 (80359570)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 資源循環システム / 自然エネルギー / 地球温暖化ガス排出削減 |
研究実績の概要 |
本研究では、カーボンニュトラルな発電システムである水田に微生物燃料電池(MFC)を設置することで、稲作と同時に発電しつつ、温室効果ガスであるメタンの水田からの放出を抑制する技術を開発することを目指す。また、本研究を通して、水田に設置したMFC(水田MFC)が水田土壌微生物生態系に与える影響を明らかにするとともに、多様な新規電流発生微生物の取得を目指す。 平成28年度においては、1)水田の管理方法が水田MFCの起電力に与える影響、2)水田MFCの設置が土壌微生物群集に与える影響、3)メタン生成、硫酸還元および電流発生の間の関係の解析について研究を行った。 水管理(中干しの有無)の異なる試験区で発電実験を行い、電圧の変化を比較した。中干しを行わなかった試験区では旺盛な発電が認められた。一方、中干しを行った試験区では急激に電圧が低下したが、中干しの終了後に再び湛水すると、電圧は徐々に回復した。以上の結果から、水管理は水田MFCの起電力に大きく影響し、中干しは発電に負の影響を与え、中干期間中は発電量が大幅に低下することが確認された。 水田MFCが土壌微生物群集の活性に与える影響については、メディウム瓶で作成した無栽植のMFCで調べた。MFCを設置した試験区と設置しなかった試験区で揮発性脂肪酸の蓄積濃度を調べたところ、MFC設置区で蓄積濃度が高く、MFCの設置により有機物分解が促進されたことが示唆された。また、このように微生物活性に違いが認められたことから、微生物群集構造にも違いがあるものと推定された。 メタン生成、硫酸還元および電流発生の間の関係についても、メディウム瓶で作成した無栽植のMFCで調べた。これまでに阻害剤を使ってメタン生成を阻害すると発電量が増大し、硫酸還元を阻害すると発電量が低下することが分かってきている。さらなる阻害剤実験を行い、この結果について確証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度においては、1)水田の管理方法が水田MFCの起電力に与える影響、2)水田MFCの設置が土壌微生物群集に与える影響、3)メタン生成、硫酸還元および電流発生の間の関係の解析について実施する予定であった。1)については、中干しの発電への影響を明らかにすることができた。また、3)についてもメタン生成と発電との間に競合関係があること、硫酸還元が発電に関与していることを確証することができた。このように、1)と3)の課題については順調に進展した。 一方、2)については、MFCを設置した試験区と設置しなかった試験区で微生物群集構造がどのように異なるか(あるいは異ならないか)を16S rRNA遺伝子配列に基づいた微生物群集構造解析により明らかにする予定があったが、そこまで到達しなかった。しかし、MFCの設置が水田土壌中の微生物の活性に影響し、有機物の分解が促進されることを示唆する結果が得られた。一般に、16S rRNA遺伝子配列を調べることで、既知の種の情報からその活性を推定することができるが、それはあくまでも推定であり、今年度の研究で実際に活性の知見が得られたことは大きな収穫であった。以上のことから、総合的には概ね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
水田の管理方法が水田MFCの起電力に与える影響については、平成28年度に得られた結果の再現性を確認する。メタン生成、硫酸還元および電流発生の間の関係についても、メタン生成阻害剤(クロロホルムまたは2-ブロモエタンスルホン酸ナトリウム)や硫酸還元阻害剤(モリブデン酸ナトリウム)を用いた実験を行い、平成28年度に得られた結果の再現性を確認する。また、メタン生成、硫酸還元および電流発生の間の関係をより詳細に明らかにするために、硫酸還元細菌個体群やメタン生成古細菌個体群の動態をPCR-DGGE解析により追えないか検討する。さらに、阻害剤を利用することで、水田MFCの設置が水田土壌中の有機物分解に与える影響について詳細な解析を行う。 水田MFCの設置が土壌微生物群集に与える影響については、16S rRNA遺伝子配列に基づいた微生物群集構造解析により明らかにする。より総合的に考察を行うため、可能であれば正極群集と負極群集の両方について解析を行う。 水田MFCの電極由来の細菌分離株について、純化できていない菌株については純化と特徴付けをすすめる。純化できた菌株については16S rRNA遺伝子配列に基づいた系統学的特徴付けを進める。
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