前年度までに、シロアリ腸内に生息する原生生物の細胞サイズによる分画条件の検討と、微量細胞の酵素活性測定方法の検討を行った。共生系の酵素活性は原生生物の遺伝子発現量の変動以外に、1匹の腸内に生息する原生生物の細胞数も影響することが予想されたため、シロアリ腸内の酵素活性測定とともに、各原生生物種の細胞数がどのように変動するのか解析を行った。人工飼料でシロアリを飼育して各原生生物の細胞数を計数したところ、条件によっては特定の原生生物種の細胞数が増加または減少した。酵素活性を測定したところ、原生生物が消失する条件であるスターチ飼育で、いずれの基質に対しても著しく活性が減少した。一方で、セルロースで飼育したシロアリでは、カルボキシメチルセルロース(CMC)に対する活性は上昇したが、粉末セルロースに対する活性に影響は見られなかった。また、餌に含まれるキシランの有無によって、キシランに対する酵素活性に影響はなかった。 原生生物の細胞あたりの遺伝子コピー数を検出・解析したところ、飼育条件によらずいずれの細胞でもGHF7のセロビオハイドロラーゼ遺伝子がもっとも高発現していたが、細胞ごとの遺伝子コピー数は大きく異ならないことが推定された。一方で、GHF10遺伝子コピー数は木質飼育で高い傾向が見られた。 以上の結果から、木質から人工飼料への変更により一部の原生生物の細胞数が多くなることで、活性が上昇することが推定された。また、粉末セルロースに対する活性に影響が見られなかったことは、原生生物の持つ酵素が基質結合ドメインを持たないという特性や、酵素活性測定手法上の問題も考えられた。
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