研究課題/領域番号 |
16K08113
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研究機関 | 札幌市立大学 |
研究代表者 |
矢部 和夫 札幌市立大学, デザイン学部, 教授 (80290683)
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研究分担者 |
木塚 俊和 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 環境・地質研究本部環境科学研究センター, 研究職員 (50570628)
矢崎 友嗣 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (00449290)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 養分負荷 / ミズゴケハンモック / 窒素保持量 / 蒸発濃縮 / 雨水希釈 / 流域土地利用 |
研究実績の概要 |
農地の肥料の使用によって高濃度になった栄養塩が地下水を通じて下流域の湿原へ流れ込む事によって、湿原植生の劣化、特にミズゴケ群落の減少が懸念されている。人為的影響の少ない自然条件の湿原(自然サイト)と、外部から栄養塩負荷を受けた湿原(負荷サイト)に調査地を設定した。 湿原内への養分・塩類の負荷量の評価と群落種組成への影響の解明について、湿原内への養分・塩類負荷量を評価するために、各調査区で水位と水質の調査を実施した。各調査区の水収支を試算した結果、自然サイトでは降水が、負荷サイトでは湧水を起源とする地表流入水が、それぞれ流入水の大部分を占めており、両湿原では水の涵養システムが異なることが分かった。また、窒素収支の試算結果によれば、自然サイトに比べて負荷サイトでは窒素保持量が圧倒的に大きく、外部からの窒素負荷によって湿原内の窒素保持量が大きくなることが示唆された。 ハンモック内部の水質形成過程の解明について、ミズゴケハンモック内の養分の垂直移動を明らかにする為、自然及び負荷サイトのハンモックを上・中・下層に分けて採水し、各層のpHとECを分析した。その結果、両サイトでpH及びECは上層より下層の方が高かった。自然サイトのpHとECは4.6と43.5μS/cm(上層)、6.4と98.6μS/cm(下層)、負荷サイトでは5.0と84.0μS/cm(上層)、7.0と268.0μS/cm(下層)であった。 気象が水質形成に及ぼす影響を評価するため、自然サイトと負荷サイトにおいて、微気象観測を実施し、貯水量変化、降水量、および蒸発散量を評価し、水収支式から水の深層からの補給量または深層への浸透量を算出した。得られた結果から、ハンモック内部の水分の挙動の特徴を明らかにするとともに、水移動、蒸発濃縮、雨水希釈の影響を考慮した水質形成モデルを試作し、気象や栄養塩負荷が水質形成に及ぼす検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究上の(1)~(3)の項目について結果を報告する。 (1)流域の土地利用と植生の変遷の把握:1900年代から1960年代にかけては国土地理院発行の地形図を、1970年代以降は既存の土地利用データをそれぞれ用いて、流域土地利用の変遷を明らかにした。負荷サイトにおける1975年と2011年の航空写真の解析より、調査地中央のミズゴケ群落が縮小し、ヨシ群落が拡大していた。 (2)湿原内への養分・塩類の負荷量の評価と群落種組成への影響の解明:自然サイトと負荷サイトで、水収支と栄養塩収支の評価を試みた。初年度に調査区を設置して観測を開始し、平成29年11月まで水位と水質観測を継続した。平成29年度には地表流入水の推定手法を新たに検討し、水収支全体の把握を進めることができた。 (3)ハンモック内部の水質形成過程の解明について:pHとECが上層より下層の方が高かった事から、ハンモックの上層には栄養塩濃度の低い雨水が涵養し、下層には栄養塩濃度の高い地下水が存在すると考えられる。さらに、上層と下層間における傾向は、採水期間(2017年6~9月)中にわたり、又、両サイト共通に見られた。 気象観測結果による水収支によると、ハンモックでは晴天日は、水が蒸発散によって失われても下方から水が補給され、降雨時は雨水のほとんどが下方浸透した。そのため、ハンモック表層の含水率は極めて安定した。水質形成モデルを作成し水質変化を検討した結果、ハンモック内部の溶質は蒸発散によって濃縮し、降雨によって希釈される。湿原表層水の栄養塩負荷が増加すると内部の塩類濃度が高くなりやすくなり、大型維管束植物の生育に有利となる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)流域の土地利用と植生の変遷の把握は29年度で終了。 (2)湿原内への養分・塩類の負荷量の評価と群落種組成への影響の解明:負荷サイトにおける地表流入水量及び栄養塩負荷量の観測を継続するとともに、初年度からの観測データを解析して、両調査区の栄養塩収支を明らかにする。 2014年~2016年の自然サイト及び負荷サイトにおいて、地下水調査と植生調査を実施した。得られた結果をもとにCCAやTWINSPANなどの統計解析を行い、水質や水位などの環境因子と群落種組成の関係を示す予定である。以上の調査・解析より、栄養塩負荷が湿原内の群落種組成に与える影響を明らかにする。特に、肥料由来と推測される窒素やカルシウム濃度が群落種組成に強い影響を与えている可能性が期待される。 (3)ハンモック内部の水質形成過程の解明:平成30年度も引き続き、現地での気象観測と採水を継続し、水文気象環境や水質に関するデータを蓄積する。さらに、ミズゴケ泥炭カラムを利用した室内実験で水質形成過程を再現し、塩類の移動遅延に関するモデルパラメータを検討する。作成されたモデルをもとに、栄養塩負荷量に応じた塩類濃度からなる境界条件を変えながら、渇水期や多雨期のハンモック内部の塩類濃度を推定する。 (4) 養分・塩類負荷がミズゴケハンモックに与える影響の解明:(1)~(3)の結果から、流域の養分負荷が湿原生態系に与える影響のメカニズムを明らかにして、その結果に基づいた効果的なミズゴケ群落の保全対策を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部30年度購入予定に変更した。
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