研究課題
本研究では、生物資源である多糖キチンの有効利用を目指し、「細菌P. FPU-7による難分解性キチン分解機構の解明とその応用」を行っている。本年度は、主に「立体構造に基づくChiWのキチン分解方法の解明」を行った。(1) ChiW触媒ドメインのキチンに対する反応様式の解析: ChiWには触媒ドメインが2つ存在し(Cat1、Cat2)、それらはリンカードメイン(Ig2)を挟み、触媒領域(Cat1-Ig2-Cat2)を形成している。触媒領域、各々の触媒ドメインのみの組換えタンパク質、および、触媒ドメインを入れ替えたタンパク質(Cat2-Ig2-Cat1)を調製した。Cat1、Cat2、Cat1-Ig2-Cat2、Cat2-Ig2-Cat1の合成基質pNP-(GlcNAc)2に対する比活性は、それぞれ、0.46、0.15、1.8、0.37 U/mgであった。各触媒ドメイン単独で存在するよりも、ドメイン構造を形成することで、効率的にキチンを分解することが示唆された。また、Cat1、Cat2の4糖を基質にした際の反応産物をHPLCで追跡したところ、同様の反応挙動を示し、Cat1、Cat2ともに単独のドメインで糖転移活性を有していた。(2) クレフトを形成するアミノ酸残基に対する変異体の解析: 触媒残基、基質を認識するアミノ酸残基を中心に変異体を作製したところ、120-130%オリゴ糖合成活性が上昇した変異体が取得された。(3) 立体構造と活性の相関解析: ChiWの立体構造を決定し、活性との相関解析を行った。キチンを基質とした際の反応産物の還元末端を定量すると4.9 U/mgであったが、遊離する2糖を定量すると2.1 U/mgであり、ChiWは低プロセッシブ型であることを示した。クレフトの形状がプロセッシブ度に影響を与えていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、「立体構造に基づくChiWのキチン分解方法の解明研究」を進め、下記の成果を得た。おおむね当初の研究計画のとおりである。(1)ChiW触媒ドメインのキチンに対する反応様式の解析: ChiWの個別のドメインタンパク質が調製でき、それらの諸性質を明らかにすることができた。(2)ChiWクレフトを形成するアミノ酸残基に対する変異体の解析: クレフト中の変異体の解析ができ、糖転移活性の上昇した変異体を取得することができた。(3)立体構造と活性の相関解析: ChiWの立体構造を決定することができ、ChiWの特徴である低プロセッシブ度を立体構造に基づいて解明することができた。また、本成果は、論文として掲載することができた。
交付申請書の通り、研究を進める。H29年度は、「P. FPU-7 細胞表層組換えタンパク質発現系の構築」を中心に行う。(1) ChiWのP. FPU-7での発現解析: P. FPU-7 細胞表層タンパク質発現系を構築するのに先立ち、まず、P. FPU-7細胞表層で組換えChiWが適切に発現され、機能するかを確認する。Paenibacillus近縁種であるBrevibacillus発現ベクターにChiW遺伝子を挿入したChiW発現ベクターを用いて、エレクトロポレーション法によって、ChiWの遺伝子が破壊されたP. FPU-7を形質転換し、機能を相補するか解析する。(2) ChiW細胞表層提示ドメイン融合タンパク質の解析: ChiWの細胞表層提示ドメインと他のタンパク質や酵素(緑色蛍光タンパク質や細菌分泌型アミラーゼ)を連結したタンパク質発現ベクターを作製する。そのベクターでP. FPU-7を形質転換後、活性や蛍光顕微鏡にてタンパク質の発現の確認を行い、P. FPU-7細胞表層提示法の汎用性を評価する。(3) P. FPU-7細胞表層タンパク質発現条件の最適化: P. FPU-7の細胞表層への組換えタンパク質発現系の最適な培養条件(培地、温度、時間等)を決定し、P. FPU-7 細胞表層タンパク質発現系を完成する。
年度をまたいで実験、論文投稿準備を行った。その予算を基金として確保するため、差額が生じた。
差額は、実験材料費、論文掲載料および論文投稿費用などに利用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
PLOS ONE
巻: 11 ページ: e0167310
doi: 10.1371/journal.pone.0167310.