研究課題/領域番号 |
16K08116
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
上田 光宏 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (50254438)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミミズ / 低温適応酵素 / セルラーぜ / アミラーゼ / バイオエタノール / バイオエネルギー / 連続糖化発酵法 / 食品系廃棄物 |
研究実績の概要 |
22世紀に向けて化石燃料に依存しない低炭素社会を構築するためには,低温糖化・低温発酵する技術の開発が望まれる。そこで,本年度は,ミミズ由来の低温適応酵素に関する以下の研究を行なった。 (1)ミミズ由来のmRNAを用いたトランスクリプトーム解析と植物バイオマス分解に関与する酵素のデータベース構築:トランスクリプトーム解析を行い,ESTデータベースの構築を行なった。糖質分解酵素に焦点を当て,ミミズ由来の糖質分解酵素をそれぞれのFamilyに分類した。デンプン,セルロースをはじめヘミセルロース分解に関与する酵素が存在することが明らかとなった。 (2)ミミズ由来の低温適応性新規植物バイオマス分解酵素のクローニングと高発現系の構築:2種類の生デンプン分解酵素遺伝子(Ef-AmyI, Ef-AmyII)をクローニングし,異種宿主発現系を用いて酵素を高発現させた。これらの2種類の生デンプン分解酵素は低温・酸性条件下で高活性を示した。さらに,~15%のアルコール存在下でも高い活性を示した。これより,本酵素を連続糖化発酵法によるバイオエタノール生産に利用できることが判明した。 (3)ミミズ由来の低温適応性新規植物バイオマス分解酵素の構造と機能の解析:生デンプン分解酵素(Ef-AmyI)の結晶構造を明らかにしたところ,GH Family 13に属する動物由来のPp-Amy (PDB:1PIG)と構造の類似性が見られた。また,ミミズ由来のセルラーゼ同様,酵素表面電荷がマイナスに富んでいることが明らかとなった。低温適応性との関連が示唆された。さらに,Ef-Amy IにCa2+イオン結合部位が存在し,分子の構造安定性に寄与すると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)ESTデータベースを構築し,ミミズ由来の糖質分解酵素に関する多くの情報を取得した。この情報を元に生デンプン分解酵素遺伝子(Ef-AmyI, Ef-AmyII)をはじめ他の糖質分解酵素遺伝子(マンナン分解酵素,キチン分解酵素,ヘミセルロース分解酵素など)の cDNAクローニングを行なった。 (2)シマミミズ由来生デンプン分解酵素( Ef-AmyI, Ef-AmyII)の酵母を用いた異種宿主発現を行い,高発現に成功した。組換え酵素を用いて,その性質を調べた。本酵素は,低温・酸性(30℃,pH 5付近)条件下で生デンプンに対して高い活性を示した。さらに,15%エタノール存在下でも高活性を示した。生デンプンから時間の経過に伴いマルトオリゴ糖だけでなくグルコースが分解物として検出された。多くのα-アミラーゼはCa2+ イオンの結合により活性状態を保持することが示されている。そこで,Ef-AmyIのCa2+イオンとEDTAの添加の酵素活性に及ぼす影響を調べたが,活性に大きな差は見られなかった. (3)ミミズ由来の生デンプン分解酵素(Ef-AmyI)のX線結晶構造解析を行った。その結果,GH Family 13に属する動物由来のα-アミラーゼ(Pp-Amy (PDB:1PIG))と構造が類似していることが明らかとなった。TIMバレルドメインとC末端ドメインから構成されていた。Ef-Amy IにCa2+イオン結合部位があるかを調査した。その結果、Ef-Amy Iの電子密度を観察したところCa2+イオンの存在を確認することが出来た。結合サイトは他種由来のCa2+結合型アミラーゼと同じであった。このCa2+結合はアミラーゼ分子の構造安定性に寄与すると考えられた.
以上の結果を総合すると,連続糖化発酵法によるバイオエタノール生産にミミズ由来の生デンプン分解酵素を利用できることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Ef-AmyIIはEf-AmyIより生デンプンに対して2倍以上分解能の高いことを明らかにしている.この高い理由を構造と機能の面から明らかにしていく.この研究を元に生デンプン分解能の高い酵素を遺伝子工学的な手法を用いて創製する. (2)より低温下で活性の高い酵素を創製する.サンプルにはミミズ由来のマンナナーゼを用いる.マンナナーゼの構造上で塩橋を形成している構造部分に着目し,その部分のアミノ酸配列に変異を導入し,低温活性が向上するかどうか明らかにしていく.この手法で低温活性が向上したならば,ミミズ由来の他の加水分解酵素(アミラーゼ,セルラーゼなど)にも導入を試み,低温活性の向上した酵素を創製する. (3)ミミズ由来の生デンプン分解酵素は生デンプンからマルトオリゴ糖だけでなく,グルコースも分解産物として検出される.分解機構を酵素化学的に明らかにし,遺伝子工学的な手法を用いてグルコース生産能の高い酵素の創製を試みる. 以上の実験と並行して,連続糖化発酵プロセス構築に向けた予備実験を試みる.
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