研究課題/領域番号 |
16K08116
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
上田 光宏 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (50254438)
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研究分担者 |
玉田 太郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 上席研究員(定常) (50391248)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミミズ / 低温適応酵素 / セルラーゼ / アミラーゼ / バイオエネルギー / 糖質加水分解酵素 / 連続糖化発酵法 / 食品系廃棄物 |
研究実績の概要 |
昨年度は(1)ミミズ由来のmRNAを用いたトランスクリプト-ム解析とデータベースの構築,(2)ミミズ由来の低温適応性生デンプン分解酵素遺伝子のクローニングと高発現系の構築,(3)ミミズ由来の低温適応性生デンプン分解酵素の構造と機能の解析に関する研究を行ってきた.今年度は,ミミズ由来のマンナン分解酵素に着目し,研究を行った.ミミズ由来のマンナン分解酵素(Ef-Man)遺伝子をPichia酵母を用いて異種宿主発現させた.次にEf-Manの構造と機能を明らかにするためにX線結晶構造解析を行った.その結果,Ef-Manの高次構造は好冷性酵素である南極トビムシ(Cryptopygus antarcticus)由来マンナナーゼ(Ca-Man)の構造と似ていることが明らかとなった.しかし,Ef-Man(最適温度60℃)はCa-Man(最適温度35℃)に比べ低温活性が低く,この違いは構造のわずかな違いに起因していると考えた.本研究では,タンパク質の構造の安定化に寄与している塩橋に着目した.これまでに塩橋を消失させることで低温活性が向上するという報告は存在するが、塩橋を弱めた際の影響についての報告はほとんど存在しない。そこで、Ef-Manに存在する塩橋を弱めることで低温活性を向上させるための研究を行った.R125、R213、R302の三つのアミノ酸残基に注目し、部位特異的変異導入法を用いてR125K、R213K、R302Kの3種の塩橋を弱めた変異酵素を作製した。野生型(WT)と変異酵素3種の低温活性を比較したところ、R302KがWTよりも高活性を有することが明らかとなった。以上の結果より、塩橋を弱めるという方法は熱安定性を維持しながら低温活性を向上させることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミミズ由来のマンナン分解酵素(Ef-Man)のPichia 酵母を用いた異種宿主発現に成功し,その諸性質を明らかにした.次に,本酵素の構造と機能を明らかにするためにX線結晶構造解析を行った.その結果,Ef-Manの高次構造は好冷性酵素である南極トビムシ(Cryptopygus antarcticus)由来マンナナーゼ(Ca-Man)の構造と似ていることが明らかとなった.しかし,Ef-Man(最適温度60℃)はCa-Man(最適温度35℃)に比べ低温活性が低いということが判明した.この違いが構造のわずかな違いに起因していると考え,本研究では,タンパク質の構造の安定化に寄与している塩橋に着目した。これまでに塩橋は酵素の低温適応性に重要な因子であると考えられている.そこで,Ef-Manに存在する塩橋を弱めることで低温活性を向上させるとともに,マンナナーゼ活性に及ぼす塩橋の影響についての知見を得ることを目的に研究を行った.本研究ではR125、R213、R302の三つのアミノ酸残基に注目し、部位特異的変異導入法を用いてR125K、R213K、R302Kの3種の塩橋を弱めた変異酵素を作製した.野生型(WT)と変異酵素3種の低温活性を比較したところ,3つの変異体の中でR302KがWTよりも高活性を有することが明らかとなった.低温活性向上に寄与したR302に注目し,次に塩橋が完全に消失するR302Aを作製した.R302AもR302Kと同様に低温活性の向上が確認されたが,R302Kに比べ熱安定性が低下することが明らかとなった.これは塩橋が完全に消失したことで構造が柔軟になり,安定性が低下したためだと考えられた.以上の結果より、塩橋を弱めるという方法は熱安定性を維持しながら低温活性を向上させることが明らかとなった。今後は,結晶構造解析を行うことで活性に与える影響を調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ミミズ由来のマンナン分解酵素(Ef-Man)の塩橋を弱めた変異体の中でR302Kがもっとも低温下で高活性を示した.活性向上に寄与したR302に注目し,塩橋が完全に消失するR302Aを作製したところ,R302Aも低温活性の向上が見られた.しかしながら,R302AはR302Kよりも熱安定性が低下していた.熱安定性に対する違いを明らかにするために,結晶構造解析を行い,低温活性並びに熱安定性に与える影響に関して考察を加える. (2)シマミミズ由来の生デンプン分解酵素(Ef-Amy)はマルトオリゴ糖だけでなく,グルコースも分解産物として検出される.分解機構を酵素化学的に明らかにし,遺伝子工学的手法を用いてグルコース生産能の高い酵素を創製する.さらに,結晶構造解析についても検討する.. (3)Ef-Amy の低温活性保持機構を明らかにする.Ef-Amy Iは低温活性を持たない他種由来の酵素と活性部位周辺のループ構造に差が見られた.さらに,タンパク質表面については、Ef-Amy Iでは酸性アミノ酸残基が多く露出していることが明らかとなった.このような活性部位周辺のループ構造やタンパク質表面構造はシマミミズ由来の酵素に共通した特徴であり,低温活性に重要であると考えられる.低温活性保持機構を構造と機能の両面から解析を行う.
ミミズ由来の糖質分解酵素を用いて低温でより高活性を有する酵素を創製するとともに,低温活性保持機構を明らかにするための研究を進める.さらに,ミミズ由来の糖質分解酵素を連続糖化発酵法に応用・利用できるよう研究を推進する.
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