研究課題/領域番号 |
16K08120
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
武田 徹 近畿大学, 農学部, 講師 (00247967)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 環境浄化 / セレン蓄積植物 / テルル / 亜テルル酸還元 / カタラーゼーペルオキシダーゼ |
研究実績の概要 |
本申請研究の目的の1つである亜テルル酸特異的還元酵素の探索を、セレン蓄積植物に分類されるブロッコリー、カラシナおよびソルガムを用いて行った。亜テルル酸塩存在下で栽培したいずれの植物の粗抽出液においても、NAD(P)Hを電子供与体とする亜テルル酸還元活性が存在することが判明した。そこで次に、これら植物の亜テルル酸還元酵素を同定するために、Native PAGEにより分離したタンパク質での亜テルル酸還元活性の検出、すなわち、亜テルル酸特異的還元酵素の活性染色を試みた。その結果、ブロッコリー、カラシナおよびソルガム地上部には、それぞれ少なくとも2種類の亜テルル酸還元酵素タンパク質が存在することが明らかになった。活性を示したタンパク質バンドの移動度はそれぞれの植物で異なっていたことから、亜テルル酸還元活性を有する酵素は、それぞれの植物で特有であるか、あるいは、同じ酵素タンパク質でもアミノ酸組成が異なるなど、植物間で相同性が低いことが推測された。 次に、ソルガムの活性酸素消去酵素に及ぼすテルルの影響を調べた。その結果、亜テルル酸塩存在下で栽培した植物体、特に、高濃度の亜テルル酸により生育が著しく阻害された植物体では、過酸化水素消去系の鍵酵素であるアスコルビン酸ペルオキシダーゼ活性が有意に低下していたが、カタラーゼ活性は増加していた。同じ過酸化水素消去酵素であるにも関わらず、カタラーゼ活性が増加したのは、典型的なカタラーゼ反応では無く、カタラーゼ-ペルオキシダーゼ反応の上昇によるものと推測され、この反応が亜テルル酸還元に関与することが考えられた。 今後、亜テルル酸還元酵素を同定し、その遺伝情報などを活用することにより、テルル汚染土壌からの資源としてのテルル元素の効率的回収と、テルル汚染土壌の修復が可能になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
追加採択のため、申請研究開始が半年遅れた。そのため、ブロッコリー、カラシナおよびソルガムにそれぞれ亜テルル酸還元酵素タンパク質が少なくとも2種類存在することを、Native PAGE後の活性染色法により明らかにすることができたが、各植物における亜テルル酸還元酵素タンパク質の同定までには到っていない。また、亜セレン酸還元系についても、同様に酵素タンパク質の同定までには到っていない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)今年度得られた成果をもとに、平成29年度はブロッコリー、カラシナ、およびソルガムにおける亜テルル酸還元酵素の同定を試みる。具体的には、Native PAGEで亜テルル酸還元活性を示したタンパク質バンド(ゲル)よりタンパク質を抽出し、SDS-PAGEにより抽出タンパク質をさらに分離する。分離したタンパク質の部分アミノ酸配列は次の2つの方法により決定する。まず、SDS-PAGEで分離したタンパク質をPVDF膜に転写後、N末端アミノ酸配列をプロテインシークエンサーで解析する。次に、SDS-PAGEで分離したタンパク質をゲル中でプロテアーゼ消化し、その消化断片のアミノ酸配列をMALDI-TOF/MSにより解析する。以上より得られたアミノ酸配列の情報をもとに、データベースでホモロジーサーチする。亜セレン酸還元酵素の同定も同様の方法で試みる。 (2)(1)で得られた亜テルル酸還元酵素の内部アミノ酸配列情報をもとに、亜テルル酸還元酵素の遺伝子クローニングを試みる。 (3)(1)で得られた情報をもとに、亜テルル酸還元酵素タンパク質に対するポリクローナル抗体を作成する。 (4)また、FPLCシステムを用いて、ブロッコリー、カラシナ、およびソルガム粗抽出液より亜テルル酸還元酵素を部分精製する。得られた精製酵素を用いて、基質(亜テルル酸塩)に対する親和性、pH安定性、温度安定性、および電子供与体の特性など、酵素化学的性質を解析する。これら亜テルル酸還元酵素の酵素化学的性質に関する情報は、本酵素の細胞内での生理機能を考察するうえで重要であるばかりではなく、将来、資源回収や環境浄化のために本酵素を活用するうえで有効なものになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請研究の採択が半年遅れたため、本格的な申請課題の研究スタートが10月中旬となった。そのため、申請段階で購入予定だった機器備品(分光光度計)を購入するに到らなかった。また、試薬およびチップ・チューブ・滅菌シャーレなどの消耗備品も、申請段階で予定していた購入量にまで到らなかった。以上の理由で次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、今後の研究計画を見越して、植物育種に必要な人工気象室の購入と遺伝子クローニングに必要なサーマルサイクラーの購入を計画する。以上より、平成28年度に未使用で繰り越した研究費を有効活用する。
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