研究課題/領域番号 |
16K08124
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
佐藤 智 山形大学, 農学部, 准教授 (70444023)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | マルタニシ / 水田湛水生物 / 水稲栽培 |
研究実績の概要 |
淡水生態系における物質循環に巻貝類は重要な役割を担っている。水田にも複数種の巻貝類が生息しており、水田生態系における物質循環に重要な役割を果たしていると考えられる。物質循環は水稲栽培、特に低投入による持続的な栽培(例えば有機農法や自然農法)において重要な要素であることから、これらの水稲栽培において貝類の存在は重要と思われるが、その実際の影響についてはほとんど知られていない。水田に生息する巻貝類の中で、マルタニシは体サイズが比較的大きい日本在来種である。また各地の水田や止水域に分布している。本研究ではその水稲を含む水田生態系への影響を明らかにするとともに、その機能を活用した水稲栽培方法の確立を目的としている。 平成29年度は主に水稲栽培試験を実施した。規模の異なる3つの実験系(ポット試験、水田模型試験、水田試験)を屋内または屋外に設定し、マルタニシが水田生態系、特にイネの生育に及ぼす影響を調べた。これらの研究結果から、平成30年度も継続予定である水田模型試験および水田試験の改善、さらには他種巻貝類との関係性についての試験への基礎資料としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本事業は平成28年10月に採択が決定した。そのため、初年度に予定していた水稲の栽培試験は平成29年度から開始した。 【実験1】:ポット実験では、マルタニシの有無を操作した(以後、マルタニシ有区と無区)プラスチック容器(60リットル)でイネを栽培し、その生育に及ぼす影響を試験した。その結果、イネの成長(茎数やバイオマス)はマルタニシ有区で無区よりも10%程度増加した。以上のことから、マルタニシはイネの成長に正の影響があると考えられた。 【実験2】:水田模型試験では、マルタニシの有無を操作したプラスチック容器(180リットル)イネの生育やその他生物の発生に及ぼす影響を試験した。イネの生育は両処理区間で有意な差が見られなかった。その理由として、実験期間中に3割程度のイネが野ネズミ類の食害を受けたためと考えられた。一方で、藻類の発生状況に処理区間で違いが見られ、アオミドロなどの藻類の発生量がマルタニシ有区で無区よりも30%程度増加した。以上のことから、 マルタニシは藻類の発生に正の影響があると考えられた。 【実験3】:圃場試験ではマルタニシがイネの生育および水田生物の発生に及ぼす影響を試験した。山形大学農学部フィールド科学センターにおいて、約2aの水田を6筆用意した。うち半数の圃場それぞれにマルタニシ1000個体を5月上旬に放飼した。イネの生育は両処理区間で有意な差が見られなかった。6筆の圃場は農業用道路を挟んで左右に3筆づつ位置しており、左右でイネの生育の傾向が大きく異なり、土地の影響を強く受けたことが原因と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
水稲の栽培試験を本年度から開始したが、【実験2】および【実験3】については、平成30年度も同様の試験を継続する予定である。ただし、野ネズミによる食害や土地の影響などの問題があったことから、防護柵の設置や圃場の位置の見直しなどを行う。また、他種貝類など他生物との関係について明らかにする室内実験を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は野外実験に使う除草機の定期メンテナンス費用および追加購入を予定していた。メンテナンスについては業者に委託するのではなく、自ら実施した結果、費用を大幅に削減できた。また、除草機作業に習熟した結果、追加購入なしでの作業が可能となったため、追加購入を見合わせたことが、次年度利用額が生じた。 その使用予定についてであるが、除草機の故障の際の補修または新たな購入が必要になった際の資金として活用したい。
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