研究課題/領域番号 |
16K08127
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
水野 隆文 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (50346003)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イブキジャコウソウ / 緑化用シート開発 / 乾燥耐性 / GC-MS解析 / モノテルペン炭化水素類 / 保水シートの併用 / 岩盤緑化 |
研究実績の概要 |
①海外のイブキジャコウソウを用いた採石場での緑化試験を1年半にわたり行い、生育データを収集した。緑化シートを夏期に設置することは暑さおよび乾燥のダメージが大きいが、2月に設置することにより良好に活着することが確認できた。ただし本試験期間において大幅に緑地面積が拡大することは無く、短期間での緑地面積は期待できないことが判明した。よってイブキジャコウソウによる緑化はまずあくまでも岩場もしくは土壌が少ない区画を植物で被覆できるシートの開発を目指すべきであると考えられた。 ②不織布や培養土を使った保水シート(多機能フィルター(株)設置)に菅島産イブキジャコウソウのタネを射込んだところ、発芽できた種子数は少ないもののシート上で旺盛な繁殖を示し、多年生のため長期にわたり植物が存在している。この結果より、多機能フィルターの保水シートと菅島産イブキジャコウソウの種子の併用は有効な緑化技術として活用できることが示唆された。 ③原産地の異なるイブキジャコウソウの生育パターンの違いについて詳細なデータを収集し、三重県鳥羽市産の種類が最も夏期において生育が良く、伊吹山および青葉山の高山や多雪地帯を起源とする品種に比べ、三重県内での生育が早いことが確認された。採石場のような場合により非常な高温となるエリアにおいては、菅島のような比較的南方のエリアを起源とする種類を用いることが緑化に有利である可能性を明らかにした。 ④海外のイブキジャコウソウおよび日本原産の3種のイブキジャコウソウ(菅島・伊吹山・青葉山)の花および匍匐枝に含まれる抗菌・香気成分をGC-MSにより解析した。日本産と海外産では構成成分が大きく異なり、日本産ではモノテルペン炭化水素類が40-80%を、海外産ではエステル類が50%以上を占めていた。菅島産のイブキジャコウソウは検出成分の種類も多いことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①海外産イブキジャコウソウによる採石場での緑化試験が終了し、一年という期間では緑地面積の大幅な増大は見込めないものの、岩石が覆い過酷な採石場環境においても根を張って活着することができることを明らかにできた。これは少なくとも必要な面積に対して緑化シートを貼り付ければ緑化もしくは植物体を生存させることが可能であることを示し、さらに年月を掛けることにより岩場に対しても緑化が可能であることを示唆できた。 ②土壌が皆無の岩場においては、緑化シートを貼り付けただけでは植物の生育は不可能であったが、保水シート(多機能フィルター製)に菅島産イブキジャコウソウ種子を射込んだ場合のみ、発芽したイブキジャコウソウが岩場の上でも増殖することができた。なお他の植物についても短期的には生育することができたが、いずれも冬期には枯れており、多年的に生育できるのはイブキジャコウソウのみであった。このことにより、採石場の岩盤が露出しているエリアに関していえば、イブキジャコウソウの種子と保水シートの併用のみが岩盤緑化の有効な技術であると考えられた。一方、保水シートの施工には高額な費用が必要となるため、より簡易的かつ安価での施工法の開発が必要と考えられた。2017年度においては従来の培養土のみを用いる方法から、生分解性のヤシ繊維シートを用いた方法、さらには生分解性の保水ゲルを用いる方法の検討を始め、現在保水ゲルの配合比率の検討を進めている。 ③イブキジャコウソウを用いた商品開発については、研究協力者の伊吹薬草の里文化センターにおいて蒸留水を使ったアロマウォーターの開発への協力を行った。本事業はクラウドファンディングにより資金を調達し、実際に販売に至っている。本事業に対しGC-MSによる成分分析を行ったほか、現在抗菌活性の測定を行っている。なお、本事業からの資金提供は受けていない。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度最終月(3月)に初めて日本産のイブキジャコウソウ(菅島・伊吹山・青葉山)の緑化シートを作成し、予備試験的に閃緑岩採石場に設置し状況を確認した。結果として岩場および土壌残存区画いずれにおいてもほぼ植物体が枯死し、海外産のイブキジャコウソウとの生存率の差があることが予想された。さらに緑化現場として利用していた採石場への立ち入りが、事業の都合上2018年度より難しくなることをを受け、2018年度に予定していた国内産イブキジャコウソウのシート作りと貼り付け作業については一時中断し、より乾燥や高温、岩場での生育を可能にするシートの改良に重点を置くことにした。具体的には(1)使用する培養土の検討(2)保水ゲルの混合比率の検討と保水能力の検討(3)シートへの土壌およびゲルの保持方法などを行う。一方、個体を大きく成長させた上で、一定量の培養土と共に個体ごとで移植する方法などについても別途検討を行う。 採石場以外への緑化植物としての利用拡大を目的とし、シカ食害を受けにくい法面緑化植物としてのイブキジャコウソウの可能性に付いても検討する。日本産イブキジャコウソウで作成した緑化用シートを三重大学の演習林近辺に設置し、開放して設置した場合とオリなどで保護した場合でどの程度シカによる食害が認められるかなどを実地調査する予定である。また、不稔性品種や超匍匐性型の変異イブキジャコウソウを利用した緑化用シートの開発を同時に行う。 予定している科研研究期間が半分を過ぎたことを受け、2018年度からは企業とのコラボレーションや共同開発に結びつけられる研究へとシフトしていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会(国際蛇紋岩植生学会 アルバニア)への出席を求められ、2016年度の予算20万円を2017年度旅費に充てるよう手続きを行ったが、航空運賃が予想より抑えられたためその分を2018年度に繰り越した。 繰り越した予算はイブキジャコウソウの香気・抗菌成分の分析に用いるGC-MSの使用料金に用いる。
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