研究課題/領域番号 |
16K08134
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
足達 太郎 東京農業大学, 国際食料情報学部, 教授 (50385506)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 原発事故 / 節足動物 / 環境指標 / モニタリング / 栄養段階 |
研究実績の概要 |
福島県内の中山間地において、昆虫やクモなどの節足動物やミミズなどの環形動物を採集し、各種動物の体内における放射性セシウム濃度を測定するとともに、各生息地の空間放射線量率を調査した。 各節足動物をγ線スペクトロメトリーによって放射性セシウム(Cs-134およびCs-137)を定量した結果、コバネイナゴとエンマコオロギではそれぞれ27~80Bq/kg、18~20Bq/kgであったのに対し、ジョロウグモでは91~335Bq/kgと前2種とくらべて高い値を示した。調査を開始した2012年以降の年次変動をみると、コバネイナゴとエンマコオロギの体内から検出されるにおける放射性セシウム濃度は、毎年コンスタントに低下しているのに対し、ジョロウグモでは乱高下しており、減少傾向はみられなかった。50~100頭あまり採集した各種節足動物からは、外部形態に異常のある個体は見られなかった。 土壌環形動物のなかで表層種のフトミミズから検出された放射性セシウム量は、ジョロウグモの約50倍以上という高い値を示した。本種の個体についてオートラジオグラフィーを実施した結果、放射性セシウムは腸管内に高濃度に存在しており、筋組織への移行は少ないことが示唆された。 これまでの継続的な調査結果によれば、調査地の空間放射線量率は2012年以降、年々コンスタントに低下している。これは、半減期が約2年であるCs-134の自然減衰と、生息地の周辺で実施されている除染作業の影響によるものと推測される。土壌から一年生植物へのセシウムの移行は少ないことが知られており、こうした植物を餌とするイナゴでは、放射性セシウムの蓄積量が年々低下する一方、造網性のクモ類は高濃度の放射性セシウムが蓄積している森林のリター層などで繁殖する腐食性のハエ類などを餌とすることから、放射性セシウムのレベルが低下しにくいものとかんがえられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は台風の影響で当初の予定よりも調査日数が少なかったものの、各種節足動物および環形動物の採集目標数(各50~100頭)は達成できた。採集したサンプルはゲルマニウム半導体検出器によるγ線スペクトロメトリーにより、放射性セシウム量の定量を行ない、研究成果を国内および国際学会で発表した。また、2012年度から継続的におこなっている調査結果から、食性のことなる3種の節足動物の放射性セシウム量の推移を解明し、捕食性のジョロウグモにおいて有意な経年減少が認められないことをあきらかにした。これらの結果は国際誌の電子版にオープンアクセスとして発表した(Journal of Environmental Radioactivity, DOI: 10.1016/j.jenvrad.2016.07.017)。
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今後の研究の推進方策 |
ひきつづき、福島県の中山間地において節足動物および環形動物のサンプリングを実施する。これまでの調査で、ジョロウグモから検出される放射性セシウム濃度には、経年的な減少傾向が見られないことから、造網性クモ類の餌資源が依然として高濃度の放射性セシウムで汚染されていることが示唆された。そこで、こうした餌資源の汚染レベルをあきらかにするため、クモ類が営巣している場所にトラップを設置し、捕獲された餌資源における放射性セシウム量の定量をこころみる。同時に、クモの巣の位置を個体ごとにGPSで記録し、住宅地・農耕地・里山といった土地利用区分や除染の有無とクモ個体における放射性セシウムレベルとの関係をあきらかにする。さらに、中山間地生態系における放射性セシウムの動態を簡便にモニタリングするための指標として、節足動物や環形動物を利用することの可能性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた現地調査のなかで、台風の影響により中止となったものがあり、旅費や人件費などをふくむ調査費の予算が執行できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
調査回数もしくは日数を必要に応じて適宜調整する。
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