前年度にひきつづき、福島県内の中山間地において節足動物と環形動物を採集し、放射性セシウム(Cs)濃度を測定した。ジョロウグモの放射性Cs濃度を測定した結果、個体によって測定値が大きくばらついており、最大値と最小値で50倍程度のひらきがあった。森林環境における生物を介した放射性Csの移行については、先行研究により腐食連鎖の寄与が大きいことが示唆されている。本研究の結果から、造網性のジョロウグモは生食連鎖と腐食連鎖の双方から餌資源をえているため、捕食した餌の種類に応じて放射性Cs濃度が大きくことなるものと推定される。 いっぽう、造網性クモ類の餌資源として重要な飛翔性昆虫については、森林で採集されたサンプルより検出される放射性Csの濃度は川岸で採集されたものよりも全般的に高かった。ただし個別にみると、たとえば腐食性のハエ類では、川岸と森林の双方で比較的高濃度の放射性Csが検出されるなど、昆虫の食性や飛翔能力によってことなる傾向がみられた。放射性Csは森林の林床に長期にわたって残留するため、林床の有機物を餌資源として利用する腐食性の飛翔性昆虫においても、放射性Csが高濃度に維持されているものとかんがえられる。 林床表層性のフトミミズ類については、節足動物と比較して放射性Csを高濃度で維持している。その要因をあきらかにするため、放射性Csがミミズの体内より排出される時間を実験的にしらべた。その結果、摂食によってとりこまれた放射性Csの約95%が半減期0.1日で急速に排出され、ミミズにおいては放射性Csの代謝がはやく、体組織への吸収は少ないことがわかった。したがって、ミミズが放射性Csを高濃度に維持しているのは、生物濃縮によるものではなく、高濃度に汚染された土壌表層の餌資源に起因することが示唆された。
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