研究課題/領域番号 |
16K08135
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
江口 誠一 日本大学, 文理学部, 准教授 (00301789)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 文化的景観 |
研究実績の概要 |
生業に関わる景観を資源として明確化することを念頭に、秋吉台上の草地景観の形成過程を山焼きと関連させて復原することにあたっては、同地域北東部に位置する大シブリ・ドリーネ内の4地点で採取された試料について植物珪酸体分析を行った。うち1地点の地下30~40cmから得られた炭化物の放射性炭素年代が約300年前で、その層準より上位層中からはススキやタケ・ササ類が多産する傾向が見られた。これは江戸時代前期に草地景観が見られたという、他分野から出された従来の見解と整合する結果であった。また、真名ヶ岳、一杯水、椎ノ木平などのドリーネにおいても地質調査を進めるとともに、同地域東部に位置する長登銅山跡の遺跡発掘調査現場より分析用の炭化物試料を得た。 地域資源の探索については、ドリーネ内における蘚苔類の分布や生育環境に関する調査を行った。結果、その生育地はピナクルの窪地部やドリーネ底部など限定的で、種数及び植被率が森林環境下の半分以下であった。またドリーネ底部で湿潤環境種が、上部で乾燥環境種がそれぞれ見られ森林環境下と同様であった。また、岩質による地域間差を確認するべく、大理石で構成される平尾台においても調査を進めたところ、石灰岩性の種が多いながらも、組成は福島県阿武隈高地仙台平との共通する傾向が認められた。 地元との情報の共有化については、近隣ホテル内で行われた日本ジオパークネットワーク全国研修会にて、上記の調査成果を展示発表した。そこで地域景観の仕組みが市民の目に触れたことで多くの反響が有り、改めて関心の高さが浮き彫りとなった。このような地域施設における展示活動の機会をはじめ、地元博物館の研究協力者からのサポートや日頃の小まめな情報やデータ収集によって、科学調査の考察資料が得られたとともに、地域のコミュニティー活動の促進にも貢献することとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地元博物館の研究協力者による積極的な活動により、研究代表者側が当初見込んでいた科学調査の段取りが順調に運ぶことができたことがあげられる。特に、天然記念物現状変更等許可申請書を文化庁あてに提出するにあたっては、現地の状況や所有者の情報収集に尽力して頂いた。このことは地域内との情報共有化においても円滑に進めるにあたって意義深いことである。
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今後の研究の推進方策 |
地元博物館の研究協力者との連携をさらに深めながら、現地の情報を収集し調査を進める予定である。特に今後は、既に得られた試料中に含まれる炭化物の分析について、過去の火入れ実態解明に向けて推進する計画である。これにあたっては長登銅山跡の遺跡発掘調査事業にも積極的に関与することも検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度末におこなった調査出張での採取試料について分析依頼が間に合わなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
放射性炭素年代測定と樹種同定をそれぞれ数点ずつ分析依頼するべく既に準備が整っている状況である。
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