研究課題
本研究では、植物ホルモンの1つであるジャスモン酸(JA)がイネの成長やストレス環境下での生存性に関与することに着目し、これらの制御に関わるジャスモン酸シグナリング因子を特定して、JAによる多面的な制御機構を紐解くことを目的として研究を進めている。JAシグナリングの鍵ステップは、JA応答性遺伝子の発現の活性化に関わる転写因子に対して抑制的にはたらくJAZ因子が、JAシグナルの実体であるJA-IleととともにCOI1受容体に結合することにより、ユビキチン化されて分解されることである。これによりJAZによる転写因子の抑制が解除されて、JA応答遺伝子の活性化が進む。H28年度は、COI1非結合性の変異型JAZ因子(mJAZ)を人為的に発現誘導するイネ系統の作出を進めた。より具体的には、デキサメタゾン(DEX)誘導性プロモーター下流に種々のmJAZを連結した融合遺伝子を導入したイネ系統の作出を進めた。これまでにイネの6種類のJAZ因子についてmJAZ誘導発現系を導入したイネを作出し、次世代種子を得た。さらに、得られた系統の多くでDEX処理による発現誘導の確認を行った。これらの形質転換体の種子を用いて、種々の条件下での生育試験を行ったところ、特定のmJAZ発現系統において幼苗期の生育が促進されることが見出された。また、本研究ではJAZ因子に結合するRSS3因子やそのホモログの解析を進めた。具体的には、これらの因子をコードする遺伝子の発現部位をGFPレポーター遺伝子を用いて調べた。共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察の結果、これらの因子は地上部の成長点の細胞の核や細胞質に検出された。
3: やや遅れている
本研究では、mJAZ誘導発現系を導入したイネを作出し、これを用いた解析を行うことを予定している。しかしながら、いくつかの生理条件においては、DEX処理そのものがイネの成長や生存性に影響してしまう懸念がでてきた。また、解析結果が出ている項目がある一方で、いくつかの研究項目については解析が進んでいない。
mJAZ誘導発現系を導入したイネを用いた解析を継続して進める。但し、DEX処理が支障をきたす生理実験については、DEX処理なしでもmJAZが発現する系統を選定して、実験を重ねていく。JAZ因子に結合するRSS3因子やそのホモログの解析については、当初はバックアップ・プロジェクトとして位置付けていたが、予備的ながら興味深い結果が得られており、今後他の研究計画とのバランスを考えながら推進していく。
本年度の研究では、実験材料等の準備に時間が予想以上にかかった。その一方で、得られつつある予備的な結果を踏まえて、次年度に研究内容を追加することとした。こうした理由から、当該年度は支出を節約した。
当初計画に加えて以下の研究を遂行する。・RSS3ホモログ因子が結合するイネJAZ因子の選抜・RSS3ホモログ因子が結合するイネ転写因子の探索
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