本研究では、ストレス環境下での成長点の機能保持に関わる因子、およびジャスモン酸(JA)シグナリングの制御に関与するイネ因子について、それらの生体内での特性および役割を明らかにすることを目指した。JAシグナリングは、JA応答性遺伝子の活性化に関わる転写因子に抑制的にはたらくJAZ因子が、活性型JA(JA-Ile)ととともにCOI1受容体に結合することによりユビキチン化され、分解されることで進む。これによりJAZによる転写因子の抑制が解除され、JA応答性遺伝子の活性化が起こる。本課題代表者らは、JAシグナリングの抑制的制御に関わるイネのRSS3が根の成長制御に関わることを見出していたが、本研究ではRSS3とそのホモログRSL1、RSL2の解析をさらに進め、以下の知見を得た。(1)RSS3、RSL1、RSL2は茎頂分裂組織や葉原基の細胞で発現する。(2)RSL1やRSL2は、RSS3と同様にJAZとの結合能をもつ。(3)rss3の単独変異体は野生型に比べて地上部の生育が抑制される。また、rss3 rsl1 rsl2多重変異体はrss3単独変異体に比べてさらに生育が抑制される傾向を示すが、多重変異による効果は限定的である。(4)rss3変異では、茎頂分裂組織および葉原基組織においてJA応答が活性化する。これらの結果は、RSS3が根の成長点だけでなく、地上部の成長点においてもJAシグナリングの抑制的制御に関与することを強く示唆した。さらにまた、本研究の副次的な成果として、次の知見を得た。(5)CFP蛍光タンパク質と融合させたJAZ2因子(CFP-JAZ2)は、プロトプラストを用いた一過的発現系において、高い頻度で核内外に未知の凝集体を形成する。
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