研究課題/領域番号 |
16K08150
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
松井 南 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, グループディレクター (80190396)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ラン藻 / 代謝制御 / 光受容体 / ポリヒドロキシアルカン酸 / 遺伝子発現制御 / 単色光 |
研究実績の概要 |
我々は光合成によるバイオプラスチックのポリヒドロキシアルカン酸(PHA)生合成のためにラン藻PCC6803に人工のオペロンを導入し生産性の向上を進めている。本研究では、我々のこれまでの研究を発展させると共に、ラン藻細胞内代謝系の遺伝子発現の単色光による制御とPHA生産に関わる影響を調べるためにラン藻の遺伝子発現の光制御地図の作成を進めた。 光は、照射の有無で遺伝子発現誘導ができるためラン藻細胞の健常性を保ちつつ、より効率的な物質生産が可能である。ラン藻が持つ紫、青、緑、橙、赤、遠赤色の光受容体に対応したLEDパネルを独自に作成し、暗順化したラン藻に対して各単色光を照射した後、RNA-seqによる遺伝子発現解析を行った。解糖系、TCA回路、PHA合成経路の遺伝子を中心に光制御を調べたところ、解糖系glgX, pgiが橙、赤、遠赤色で暗所より発現の抑制が見られた。TCAサイクルでは、frdA,icdが緑、燈、赤、遠赤色で暗所より発現の抑制が観察された。PHA合成系では、fabG, phbCの光誘導を観察した。しかし光照射後の遺伝子発現の再現性がよくないため光照射時間と全工程の見直しを行ない、ラン藻の暗順化を3時間行なったのちに単色光を1時間照射してRNA-Seqによる発現解析を進めた。この成果について第59回日本植物生理学会年会で口頭発表を行なった。 PHAの光制御生産は、野生株とcph1, cph2の光受容体変異ラン藻を用いてPHA生産についてGC/MS計測を行なった。その結果通常の白色光条件では各系統間に差が少なく、細胞内に十分なPHAを蓄積していないことがわかった。そこで細胞内PHA蓄積を誘導する条件の検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラン藻細胞の光照射による遺伝子変動を調べる目的で生物学的な繰り返し実験を3回行ったが、遺伝子発現について再現性良いデータが取れていない。この問題を解決すべく、培養条件と光照射時間、RNAの抽出方法について総合的に見直しを行った。またRNA-Seqのリード数を増加させることで解析による誤差を減少させようとしている。 青色光受容体の欠損変異の作成が遅れているため、光条件と代謝の関係についてcph1, cph2の2つの赤色光、遠赤色光受容体の変異を用いてこれらの光条件でのPHAの蓄積を検討した。GC/MSの計測の結果、野生株、cph1, cph2の3つのラン藻でPHA量の生産量が少なく、3つの系統間での差異が検出ができなかった。原因は、PHAが細胞内の窒素と炭素のバランスによる貯蔵物質であるため、今後これを積極的に蓄積させるための条件として窒素源の枯渇が必要であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
ラン藻の光代謝地図をまとめる。光受容体cph1, cph2と野生株について内在性のPHA量が光条件により受ける影響を調べることで、PHA生合成に関与する代謝系の酵素遺伝子が光によりどのように制御されるかを明らかにする。これらの遺伝子について種々の波長の光条件での発現についてRT-PCRにより発現解析を行う。このことでどの波長の光がPHA生産に関与する代謝酵素の発現を制御しているかを明らかにする。 PHA生産の光制御については、細胞内の窒素と炭素のバランスが貯蔵物質としてのPHAの細胞内の蓄積に影響するため窒素量を減少させることでPHAの蓄積を促進させ、その条件におけるPHAの蓄積を光受容体変異体も含めて検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) ラン藻の光による遺伝子変動をまとめるために、光特異的に発現変動した遺伝子の種々の光条件での発現変動をPT-PCRにより確認を行う。また光受容体変異cph1, cph2を用いた光条件によるPHAの蓄積について条件を変えてGC/MSによる計測を継続する。 (使用計画) RT-PCRによる遺伝子発現変動の確認のためのDNAプライマーの設計費用とGC/MSによるPHAの蓄積について条件を変えて計測するための費用として用いる。
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