研究課題/領域番号 |
16K08156
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長友 優典 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (70634161)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 全合成 / アシルテルリド / ラジカルーラジカルカップリング / 二量化 / ヒキジマイシン / サジタミドD / マイトトキシン |
研究実績の概要 |
【背景】本研究課題は、ポリオキシン類およびヒキジマイシン(1)に代表されるヌクレオシドを母核構造として含む核酸系天然物の収束的合成戦略の確立を目指している。本年度はポリヒドロキシ構造を有する、1の収束的合成戦略の確立を目指した。 ヒドロキシ基は、水素結合ドナーおよびアクセプターの双方の役割を担うため、ポリヒドロキシ化された炭素鎖は、タンパク質や核酸などの生体高分子との多点相互作用を可能とする。それゆえ、重要な生物活性を示す多数の天然二次代謝産物には、高度にヒドロキシ化された非分岐炭素鎖が部分構造として多く見られる。一方、自然界に豊富に存在する単糖類は4ないし5つのヒドロキシ基を持つため、ポリヒドロキシ化された有機分子の有用な合成素子とみなせる。したがって、糖鎖間でのC(sp3)-C(sp3)結合形成によって、高度に酸素官能基化された炭素鎖を効率的に構築できれば、理想的な収束的合成戦略を確立できる。そこで我々は、構造情報を保持したまま糖鎖を連結できる反応の開発に挑んだ。 【方法・結果】化学的に安定な炭素ラジカル供与体として、α-アルコキシアシルテルリドを設定し、脱一酸化炭素を伴うホモ-ラジカル-ラジカルカップリング(二量化)によって、C(sp3)-C(sp3)結合形成を実現した。さらに、ヘテロ-カップリングによって、1のポリオール構造中の9連続不斉中心を有する化合物を、6つのホモ-、および4つのヘテロカップリング体の中から1工程で選択的に構築した。 【結論】糖誘導体のラジカル二量化戦略によって、多様な立体化学と炭素数を有する高酸化度炭素鎖の効率的な構築法を開発した。ヘテロ-カップリング戦略により1の持つウンデコース構造の構築を達成した。本成果により、高度に酸素官能基化された構造を収束的に合成する本法の実用性を実証した。本成果は英国商業誌Nature Chemistryに報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3種のラジカル的分子間C-C結合形成を鍵とする核酸系天然物の収束的合成戦略の開発という本研究課題に着手してわずか一年足らずで、当初予定していた3種のラジカル付加反応(C=C、C=N、C=Oへの付加)とは異なる、第4の反応ともいえる、ラジカル-ラジカルカップリング反応を開発できたため。さらに、最も合成困難と予想していた標的分子であるヒキジマイシンの全合成を可能とする、収束的合成戦略を確率できたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は引き続き、ヒキジマイシンの収束的全合成を目指すとともに、当初の計画通り、ポリオキシン類の収束的かつ網羅的全合成を目指す。 ポリオキシン類はS. cacaoiから単離された抗真菌物質である。植物病原糸状菌の細胞壁構成成分であるキチンの合成を阻害する農薬として実用化されている。その為、効率的な全合成法の開発は創薬上極めて重要である。 ウリジンから容易に合成可能なα-アルコキシアシルテルリドと光学活性オキシムをラジカル付加反応で連結する。この際、オキシム上の不斉補助基により、新たに生じる不斉点を高立体選択的に制御する。同様に、L-酒石酸から合成できるα-アルコキシアシルテルリドと光学活性オキシムをラジカル付加反応で連結し、高立体選択的にポリオール側鎖部位を合成する。続くアミド縮合ならびにカルバモイル基の導入を経て、共通合成中間体を収束的に合成する。最後に、ウラシル部位上のC5位置換様式を変化させ、網羅的にポリオキシン類を全合成する。
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