研究課題/領域番号 |
16K08161
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
北村 正典 金沢大学, 薬学系, 准教授 (80453835)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | トリアジン / π電子欠乏性 / リン配位子 / 金属錯体触媒 |
研究実績の概要 |
電子的チューニングのための置換基導入が容易で,かつ,π電子欠乏性であるトリアジンをリン配位子へと組み込むことで高活性な金属錯体触媒を開発することが研究目的である. 前年度までに上記配位子の合成,およびそれを用いたStilleカップリング反応について検討を行った.当該年度は高反応性となった配位子の理由を解明すべく,その電子状態について調査研究を行い,以下のような成果を得た.
塩化シアヌルから調製されるグリニアル試薬と求電子性リン試薬とから得られる電子欠乏性リン配位子を用いて,1価ロジウム錯体を合成した.本ロジウム錯体には一酸化炭素が配位子している.リン配位子の電子欠乏性が強く金属中心からリン配位子への逆供与が大きくなる場合,一酸化炭素への逆供与は弱くなり,一酸化炭素の三重結合性は強くなる.その結果,IRの振動波数は大きくなる.合成したロジウム錯体において,リン原子に導入したトリアジンの個数に応じてIRの波数は大きくなり,その電子欠乏性を見積もることができた.また,31P NMRにおけるロジウム―リンのカップリング定数は,そのリン配位子の電子欠乏性が増すことで,大きい値となることが知られている.このことは,電子欠乏性配位子を用いた場合に金属中心からの逆供与が大きくなることで金属―リン結合長が短くなることによる.IRの場合同様,トリアジン環数が増えるに従ってカップリング定数は大きくなり,その電子欠乏性を示すことができた.最後に,逆供与による金属―リン結合長が短くなることをX線結晶構造解析によって確かめた.これもトリアジン数が増すにつれ,結合距離は短くなった.以上のことにより,トリアジン環が与えるリン原子の電子的影響を明らかとすることができた.本結果は,触媒開発分野の発展に大きく寄与するものと期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に記した通り,今年度の研究の中心であるトリアジンを導入したリン配位子の性質を明らかとし,その金属触媒反応における有用性がどこにあるのかを示唆する結果を得た.得られた成果は,金属触媒反応において学術的に重要な知見となると思われ,その波及効果が高いと期待される.また,本課題の元来の研究目的ではないが,上記トリアジンの研究で得られたトリアジンのπ電子不足性に関する知見を利用して,新しいアシル化剤,アルキル化剤の開発,および医薬品に多く見られるトリアジニルアンモニウム塩の効果的な脱離反応などの開発に至った.以上の理由からおおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果に基づき,電子欠乏性リン配位子を用いて,これまでとは異なる反応形式の金属触媒反応の検討を行う.また,トリアジン環上の置換基変換が容易であるため,触媒の電子的なチューニングを行い,より高活性な触媒を見出す.また,その高活性な理由を明らかとしていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は購入するガラス器具や試薬の支出が少なくなるよう努めたため,また,日本薬学会年会が地元の金沢開催となり旅費を必要とせず,本状況となった.翌年度分として請求した助成金と合わせ,引き続きガラス器具や試薬の購入,本研究の成果発表にかかる旅費,論文発表にかかる英文校正費に充てさせていただく予定である.
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