電子的チューニングのための置換基導入が容易で,かつ,π電子欠乏性であるトリアジンをリン配位子へと組み込むことで高活性な金属錯体触媒を開発することが研究目的である. 平成30年度の研究成果は以下の通りである.これまでの成果に基づき電子欠乏性トリアジニルホスフィン配位子を用いて,Stilleカップリング反応以外の金属触媒反応の検討を行った結果,トリアジニルホスフィンによる触媒反応の活性化向上が見られた.また,トリアジン環上の置換基変換が容易であるため,触媒の電子的なチューニングを行い,金属触媒の反応性を検討したところ,置換基によって反応性が変化することを明らかとした. これを踏まえ,研究機関全体を通じて実施した研究成果は以下のようになる.安価に入手できる塩化シアヌルを出発原料とし,2つの置換基を導入後にトリアジニルグリニャール試薬とし,リン原子を組み込むことでトリアジニルホスフィン配位子とすることに成功した.この合成した配位子を評価するため,金属触媒反応としてStilleカップリング反応などを行った.その結果,トリフェニルホスフィンや電子不足なホスフィン配位子として知られているトリス(2-フリル)ホスフィンを用いた場合と比較して,収率の改善が見られ,また,反応速度が加速することがわかった.また,トリアジニルホスフィンが金属中心に与える電子不足性を見積もるため,一酸化炭素とトリアジニルホスフィンが配位子した1価ロジウム錯体のIRの波数, 31P NMRにおけるロジウム―リンのカップリング定数,X線結晶構造解析における金属―リン結合長から,トリアジン環が与えるリン原子の電子的影響を明らかとすることができた.また,トリアジン環上の置換基による電子的なチューニングによって,金属触媒の反応性が変化することを明らかとした.本結果は,触媒開発分野の発展に大きく寄与するものと期待される.
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