昨年度の研究から,アキラルなテトラアルキルホスホニウム塩がカルボニル基へのシアニドイオンの求核付加反応における相間移動触媒として機能することが明らかになったので,本年度はまずP-キラルホスホニウム塩の合成とその触媒活性を検討した.メントールを不斉源として用いるホスフィン-ボラン法によって合成した (2-methoxyphenyl)methylphenylphosonium bromideを相間移動触媒として,アシルシランへのKCNの求核的付加反応を種々の条件下行ったところ,反応が極めて遅く2週間程度反応させても目的とする付加体および付加-Brook転位体はほとんど得られなかった.また,Juge法などによる他のP-キラルホスホニウム塩の合成も検討したが,合成自体が難航し,また合成できた触媒を用いても反応性を向上させることはできなかった. そこで,P-キラルホスホニウム塩の合成と反応の検討はひとまず中断することとし,触媒活性の向上を図ることを目的として,さらには,エナンチオ選択性発現の機構的解明をも視野に入れ,計算化学的手法を導入することにした.すなわち,リン原子上の置換基の立体的嵩高さや電子的性質の違いと反応性との関係を,相間移動触媒存在下のシアニドイオンのカルボニル化合物への求核付加反応の遷移状態の構造およびエネルギーを種々の置換基の組合せについて求めることによって明らかにしようとするものである.現在,カルボニル化合物としてアセトアルデヒド,KCNを求核剤,四級アンモニウム塩を相間移動触媒とするモデルシステムについて,B3LYP/6-31G*レベルでの密度汎関数法(DFT)計算を試みているところである.
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