研究実績の概要 |
我々は、水の特性を活用したπ-ベンジルパラジウム錯体を活性種とする脱水型ベンジル化反応を開発している。本反応は優れた求核剤に対して有効であるが、求核性の低い基質に対しては反応性が低下する。この課題を解決するために、π-ベンジルパラジウム錯体の水素移動能に着目した。すなわち、π-ベンジルパラジウム錯体とベンジルアルコールから形成される中間体のβ-水素脱離によってベンズアルデヒドとトルエン(Pdヒドリドの還元的脱離によって生成)をそれぞれ与えることから、求核性の低い基質に対してborrowing hydrogen 機構に基づくベンジル化反応が進行すると考えた。 はじめに、求核剤として2-アミノピリジン、ベンジルアルコール(5当量)、酢酸パラジウム(5 mol%)及び水溶性ホスフィン配位子 (TPPMS, 10 mol%)を、水中、120℃で16時間加熱したところ、N-モノベンジル化体を定量的に与えた。Pd触媒として0価のPd2(dba)3を用いた場合においても同様に反応が進行した。さらに、Pd触媒の代わりにTsOHを用いた場合や水の代わりに有機溶媒を用いた場合においては反応は全く進行しなかった。 求核剤のHammett studyの結果、反応定数ρは-0.7であることから、置換基の影響を大きく受けないことがわかった。D化ベンジルアルコールを用いた交差実験を行ったところ、ベンジル位のHとDが交差した生成物を与えた。従って、Pdヒドリド中間体を経由したborrowing hydrogen機構に基づく反応が進行したと考えられる。本法は、塩基を必要とせず、緩和な条件で行うことができる。さらに、副生成物として水のみを生成し、有機溶媒を用いない環境負荷の低い反応であり、英国王立化学会のGreen Chemistry誌(Impact Factor: 9)に掲載された。
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