研究課題
Oil-in-water (o/w)エマルションは、クリーム剤などの外用剤に広く利用されている。エマルションの物理安定性は、分散する油滴が凝集し、クリーミングが進むにつれて低下していく。したがって、エマルションを基剤とするクリーム剤の製剤設計において、乳化安定性は最も重要な製剤特性と言える。近年、我々は、MRIの水分子運動性可視化技術を応用し、エマルション製剤の製剤安定性を非破壊的かつ詳細に評価できる手法を考案した。本申請課題では、MRIの画像情報を活用して、高度で客観的な乳化安定性評価を実現し、さらに、その画像情報について時間温度換算則を用いて時系列解析することにより、クリーム剤の将来的な乳化安定性を高精度で予測する手法を構築することとした。初年度の検討では、臨床で実際に使用されている院内製剤(クリーム剤)の中から製剤安定性に課題のあるものを試料として用いた。試料を様々な温度条件(30~45℃)で保存し、MRIを用いて経時的に試料の相分離の様子を観察した。得られた画像データをもとに、相分離して下層から染み出す水相面積の経時的な成長挙動を求め、時間温度換算則を応用して解析を行った。解析の結果、試料の相分離挙動は温度依存性を示し、時間温度換算則が適用できる可能性が示唆された。次年度以降は、時間温度換算則で得たエマルション相分離挙動のアレニウスプロットをもとに、試料の相分離挙動を精査し、乳化安定か機構について明確な考察を加えていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
当課題は、エマルション製剤の設計において重要な製剤特性である乳化安定性の深い理解を目的として、分子イメージング技術のMRIと材料工学の分野などで広く用いられている時間温度換算則を駆使した詳細な検討を行うこととする。初年度の到達目標として、MRIを使って試料の乳化状態を客観的に評価する指標システムを確立し、さらに、その相分離挙動が時間温度換算則で評価可能か否かを明らかにすることとした。現在時点では、研究はおおむね順調に進んでいると考えらえる。なお、申請時は、アトピー性皮膚炎治療に使用される保湿クリームを検討に用いる試料として想定していたが、予備検討の結果をもとに、これまでに検討実績のあるクリーム剤(透析掻痒症に使用される院内製剤)を用いて研究をスタートすることとした。実験の結果、MRIによって試料の経時的な相分離挙動を非破壊的に観察することができ、さらに相分離した下層の面積を乳化状態評価のための指標に使用できることが明らかになった。さらに試料の相分離挙動が保存温度依存的であり、得られた評価指標を使って時間温度換算則による解析が可能であることが明らかになった。以上より、初年度の到達目標を十分に達成できたものと考えている。
現在のところ、本申請課題は計画通り順調に進んでいるため、今後も引き続き申請書の研究計画に沿って研究を進めていく。初年度の検討から、評価指標としてMRI画像から抽出した相分離後の下層面積の経時的変化が時間温度換算則で評価できることを明らかにした。次年度はこの解析結果を精査して、試料の相分離機構を明らかにしていきたい。また、可視光領域(870nm)のレーザー光源をエマルションに照射し、その透過光や後方散乱光強度から、油滴の合一挙動や相分離挙動を評価する乳化安定性評価装置(スタビリティテスター、英弘精機製)を使用できる目途が立ったため、MRIと共に本装置も使用しながら、より微細な乳化状態の変化を評価していきたい。本研究では、種々の乳化安定性評価技術と、時間温度換算測を活用することによって、クリーム剤の製剤安定性を詳細に理解し、さらにわずかな乳化状態の変化から長期保存後の製剤安定性を高精度に予測できる手法の構築に取り組んでいく予定である。
受領額と支出額に30万円程度の差額が生じた。この主な理由は、初年度の研究にかかる試薬代が当初の見立てよりも低く抑えられたためである。本課題申請時は、実験に用いる試料(モデルエマルション製剤)を自身で調製することを想定していたが、実験の迅速化・効率化を優先させて、初年度は、市販されるクリーム剤をモデル製剤として検討を行った。その結果、試薬代にかかる経費が当初の見立てよりも安くなった。
初年度の検討で良好な結果が得られているため、次年度は申請時当初の予定に立ち返り、自身で調製した試料を使用して検討を行う予定である。さらに、初年度の研究経費が予定よりも低く抑えられたため、次年度は、申請書に記載した以外の評価項目(スタビリティテスターを使用した乳化安定性評価)についても検討を行う予定である。
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製剤機械技術学会誌
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