Oil-in-water (o/w)エマルションは、クリーム剤などの外用剤に広く利用されている。エマルションの物理安定性は、分散する油滴が凝集し、クリーミングが進むにつれて低下していく。したがって、エマルションを基剤とするクリーム剤の製剤設計において、長期保存した製剤の乳化安定性の評価および予測は最も重要な検討項目と言える。本申請課題では、MRIなどの新規分析評価技術と時間温度換算則などの時系列データ解析手法を組み合わせることにより、長期保存後のクリーム剤の乳化安定性を高精度に予測する新規手法の構築を試みた。本申請課題は3年間の計画で実施され、本年度が最終年であった。研究成果の概要は以下のとおりである。本研究では、試料として、透析患者の皮膚掻痒症に対して院内製剤として処方されるメントール・ジフェンヒドラミン含有クリームを用いた。調製した試料を異なる温度(30~45℃)で保存し、MRIを用いて経時的な相分離挙動を観察した。そして、撮像したMRI画像について時間温度換算則を用いた解析を行った。その結果、時間温度換算則がエマルションの乳化状態予測において有用であることが明らかになった。また、今回の試料の場合、実験条件の低温領域(30~35℃)と高温領域(35~45℃)では、相分離挙動が異なっていた。この原因として、温度帯によって試料中の油滴の合一挙動が異ったためと考察し、試料中の経時的な油滴の合一挙動を後方散乱光強度測定によって評価した。その結果、両者に強い相関関係が認められ、本試料の場合、油滴の合一挙動が相分離挙動に非常に大きく影響することが明らかになった。以上の検討結果から、時間温度換算則を応用した本手法は、クリーム剤の乳化安定性予測・評価において非常に有用であると考えられる。
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