研究課題/領域番号 |
16K08202
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
江川 祐哉 城西大学, 薬学部, 准教授 (90400267)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フェニルボロン酸 / 持続型インスリン製剤 / インスリンアミロイド / 人工膵臓 / 交互累積膜 |
研究実績の概要 |
4-カルボキシフェニルボロン酸をインスリン(Ins)のアミノ基に,アミド結合を介して修飾した.残存するアミノ基を定量し,Ins 1分子あたりフェニルボロン酸(PBA)が約2個修飾されたPBA修飾Ins(PBA-Ins)であることを確認した.このPBA-Insを5 IU/kgで糖尿病モデルラットに静脈内投与したところ,血糖降下作用が見られ,その作用は持続する傾向にあった.持続作用は,次のグルコース負荷試験でも確認された.5 IU/kgのPBA-Insを静脈内投与して3時間後に,グルコースを1 g/kgで腹腔内投与したところ,一度,上昇した血糖値が再び降下した.この再降下は未修飾のInsでは見られなかった.この静脈内投与での血糖降下持続作用は,これまでに発表されたことのない,新規のメカニズムに基づくものと予想される. PBA-Insの持続的な血糖降下作用は,PBA部位と生体内のポリオール化合物との相互作用に由来するものと予想される.まず,PBA-InsのPBA部位が結合能を保持していることを確認するため,水晶振動子ミクロバランス法(QCM)による検討を行った.生体内ポリオールの代替物として,ポリビニルアルコール(PVA)を用い,これをQCM電極上に吸着させた.このQCM電極をPBA-Ins溶液に浸すと,PBA-Ins吸着に由来する振動数変化が観測された.さらに,交互累積膜となるようPVA溶液,PBA-Ins溶液を交互に浸すと,膜が累積していくことが確認された.さらに,これをフルクトース溶液に浸すと累積膜の崩壊が見られた.この結果から,PBA-Insはポリオール成分との結合能を保持し,生体内のポリオール成分と結合している可能性が示された.今後,この結合能と持続的な血糖降下作用の関係について調査する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は「課題Ⅰ ラットを用いたボロン酸修飾インスリンの体内動態の調査」に取り組んだ.PBA-Insは予備検討と同様に調製でき,血糖降下作用を示した.しかし,検討初期,血糖値は大きくばらつき,PBA-Insの血糖降下作用を定量的に評価することが困難であった.この問題を改善するのには,いくつかの実験方法の変更が有効であった.採血は,イソフルラン麻酔下,尾静脈より行っていたが,心臓へのカニュレーションを行い,後頸部から無麻酔下で採血する方法に変更した.血糖値測定は,電気化学的な小型血糖センサーを用いていたものを,色素による吸光度定量法に変えた.用いるラットは,正常ラットから,内因性のInsを考慮せずに済むようにストレプトゾシンを用いた糖尿病モデルラットとした.これら血糖降下作用の評価に適した方法に変更したところで,PBA-Ins静脈内投与での持続的な血糖降下作用が見出された.その機構の調査は新たな研究課題になりうると考えている.今後は,平成28年度に計画していたが,適正に評価できなかったPBA-Insの皮下投与での血糖降下作用,PBAと相互作用するポリオールと共存させたときの血糖降下作用を調べ,PBA-Insの皮下動態について考察する. また,「課題Ⅱ 培養細胞を用いたボロン酸修飾インスリンの細胞内取込み作用の評価」として,繊維芽細胞の培養および脂肪細胞への分化に成功した.脂肪細胞とすることで,皮下脂肪組織のモデルとすることができ,今後のPBA-Insの皮下動態調査に有用と考えている.PBA-Insを,さらに蛍光色素で修飾し,それを脂肪細胞に適用する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討により,PBA-Insの血糖降下作用を適切に評価できるようになった.今後,計画にあるPBA-Insの皮下投与での血糖降下作用,その際にPBAの保護基としてポリオールを共存させたときの効果について調査する. また,これまでの検討のなかで示された,PBA-Insの持続的な血糖降下作用について,引き続き調査する.持続性インスリン製剤は,既に市販されているものがあり,これらの持続性は,皮下で凝集体を作る機構,あるいは,アルブミンとともに循環する機構によって説明される.これらの機構とは別に,PBA部位と生体中のポリオールとの相互作用に基づく機構で,PBA-Ins持続作用が説明できるか調査する.その際,PBA-InsのPBA部位を代えての検討も行う.PBA誘導体はその構造によりポリオールとの結合力,荷電状態が大きく異なる.いくつかのPBA誘導体を用いた検討を行い,PBA部位の効果について考察する. 血糖降下作用に関する検討とは別に,インスリンボールの形成抑制の観点から,PBA-Insを調査する.インスリンボールは,Ins製剤の同一部位への頻回投与で形成される皮膚病変であり,Ins製剤の効果減弱などの問題を引き起こす.近年,インスリンボール形成の原因は,Insのアミロイド沈着である,という報告がなされている.これら研究論文を参考にすれば,in vitroにてInsアミロイドを形成させることができる.今後,同条件でPBA-Insのアミロイド形成の様子を観察する.その際,PBA部位と相互作用するポリオールを共存させて,アミロイド形成に対する影響を調査する.
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