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2017 年度 実施状況報告書

皮下動態制御可能なインスリン分子マシンの開発とハイブリッド人工膵臓への展開

研究課題

研究課題/領域番号 16K08202
研究機関城西大学

研究代表者

江川 祐哉  城西大学, 薬学部, 准教授 (90400267)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワードインスリン / フェニルボロン酸 / 赤血球 / 血糖降下作用 / 体内動態
研究実績の概要

平成29年度では,インスリン(Ins)に修飾するフェニルボロン酸(PBA)誘導体の検討として,3-フルオロ-4-カルボキシフェニルボロン酸を利用した。これをアミド結合を介してInsに修飾し,3-FPBA-Insとした。3-FPBA-Insでは,1分子のInsに約2個のPBA誘導体が導入されていた。これは,平成28年度に,4-カルボキシフェニルボロン酸を利用して調製したPBA-Insと同様の結果であった。
血糖降下作用を調査するために,Ins,PBA-Ins,3-FPBA-Insを38 μg/kgの用量でラットに静脈内投与し,血糖値を測定した。血糖降下作用の強さは,Ins>PBA-Ins>3-FPBA-Insの順であり,3-FPBA-Insでは血糖降下作用がほとんど見られなかった。このInsとしての活性の低下は,PBA部位の存在により体内動態が変化したためと予想している。PBA誘導体は赤血球表面の糖鎖と結合することが知られている。静脈投与されたPBA-Insは赤血球と結合し,これが血糖降下作用の減弱を引き起こした要因と考えられる。3-FPBA-Insではフッ素の電子吸引性の効果のため,より強力に赤血球に結合する可能性があり,それが血糖降下作用の大幅な低下につながったものと説明することもできる。
今後,赤血球と各種PBA誘導体修飾Insの結合の強さを評価し,血糖降下作用との関連を調査する予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

平成29年度は「ボロン酸残基およびボロン酸保護基の最適化」の計画を立てており,新たなボロン酸残基を導入したものとして3-FPBA-Insについて検討した。3-FPBA-Insの血糖降下作用は大幅に減弱しており,その原因として赤血球表面の糖鎖と3-FPBAの結合が強すぎたためと考えられた。PBA部位の最適化までには至っていないが,この知見はPBA誘導体の選択が非常に重要であることを示すものである。
また,生体内の糖鎖とPBA部位の結合を妨げるボロン酸の保護基の探索として,水晶振動子ミクロバランス法(QCM)の利用を試みた。QCMでは電極表面に吸着する微小重量を評価する方法である。生体内の糖鎖の代替物として,ポリビニルアルコール(PVA)を用い,これをQCM電極上に吸着させた。PVAが吸着したQCM電極をPBA-Ins溶液に浸すと,PBA-Ins吸着に由来する振動数変化が観測された。ここに100 mMマンニトールを共存させると,吸着していたPBA-Insが遊離した。この結果は,マンニトールがPVAとPBA-Insの結合を競合的に阻害したためであり,マンニトールが保護基として機能する可能性を示すものである。
平成29年度には,ラットの血糖降下作用などを指標に,PBA誘導体修飾Insと保護基の組合せについて検討する予定であったが,未実施である。平成30年度には,PBA-Insとマンニトールの組合せをはじめ,ボロン酸残基およびボロン酸保護基の最適化に関する情報を引き続き収集していく予定である。

今後の研究の推進方策

PBA誘導体修飾Insとボロン酸残基の保護基を併用して,ラットに皮下投与し,その血糖値のプロファイルからPBAの体内動態における役割,保護基の有用性を評価していく予定である。その際,詳細な血糖値の測定が必要であることから,新たに持続血糖測定器(Continuous Glucose Monitoring: CGM)の利用を試みる。使用するCGMはヒト用で,酵素電極により間質液中グルコース濃度を測定するものであり,その値は血糖値と相関するといわれている。これをラットに適用するため,ラットの背部を剃毛し,そこにセンサーを取り付け,間質液中グルコース濃度を測定する。このシステムでは約15分ごとに持続的に血糖値を評価することができ,より詳細な血糖プロファイルを得ることができると期待される。
さらに,PBA部位と赤血球表面糖鎖との結合について情報を収集するため,赤血球凝集反応の利用を試みる。赤血球凝集反応は,赤血球表面糖鎖と結合する部位を複数持つレクチンで引き起こされる。同様に赤血球表面糖鎖と結合するPBAを2つ持つPBA-Insでも,赤血球凝集反応が起こると予想される。予備検討として,赤血球とPBA-Insを混合したところ,赤血球凝集反応が見られた。今後,各種PBA誘導体と赤血球の結合に競合する糖類などを共存させ,その結合力の評価を行う予定である。
また,PBA-Insを用いて,アミロイド形成の様子についても調査を行う。Insアミロイドは,Insの連続皮下投与で生じ臨床上問題となる。Insアミロイドが形成される条件において,PBA-Insではアミロイドの形成が遅いことが示されつつある。PBA修飾によるアミロイド形成抑制効果について,メカニズムの解明も含め,引き続き調査を行う。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)

  • [雑誌論文] Sugar-Responsive Layer-by-Layer Film Composed of Phenylboronic Acid-Appended Insulin and Poly(vinyl alcohol)2018

    • 著者名/発表者名
      Chihiro Takei, Yui Ohno, Tomohiro Seki, Ryotaro Miki, Toshinobu Seki, Yuya Egawa
    • 雑誌名

      Chemical and Pharmaceutical Bulletin

      巻: 66 ページ: 368-374

    • DOI

      https://doi.org/10.1248/cpb.c17-00817

    • 査読あり
  • [学会発表] インスリン由来アミロイドーシスを回避可能な新規インスリン誘導体2018

    • 著者名/発表者名
      大野 由依、川村 知裕、三木 涼太郎、江川 祐哉、杉野 雅浩、細谷 治、関 俊暢
    • 学会等名
      日本薬学会第138年会
  • [学会発表] ボロン酸修飾インスリンを用いた糖応答性交互累積膜2017

    • 著者名/発表者名
      武井 千弥、江川 祐哉、三木 涼太郎、関 俊暢
    • 学会等名
      日本薬剤学会第32年会
  • [学会発表] ボロン酸修飾インスリンと糖鎖の相互作用を利用した血管内徐放化の試み2017

    • 著者名/発表者名
      大野 由依、江川 祐哉、三木 涼太郎、関 俊暢
    • 学会等名
      日本薬剤学会第32年会
  • [学会発表] 糖鎖との相互作用に基づく持続作用を示すボロン酸修飾インスリン2017

    • 著者名/発表者名
      大野 由依、江川 祐哉、三木 涼太郎、関 俊暢
    • 学会等名
      第61回日本薬学会関東支部大会

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公開日: 2018-12-17  

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