フェニルボロン酸(PBA)はポリビニルアルコール(PVA)のジオール部位とエステル結合を形成する。そのため, PBA部位を複数持つフェニルボロン酸修飾インスリン(PBA-Ins)とPVAにより,エステル結合を駆動力とする交互累積膜を形成できる。この交互累積膜をフルクトース(Fru)に浸すと,PBA部位でのPVAとFruの競合的置換が起こり,交互累積膜を崩壊させることができる。しかし,Fruに比べ,PBAのグルコース(Glc)に対する応答は弱く,糖尿病治療で期待されるGlc応答性インスリン放出システムの構築は難しい。そこで平成30年度には,これまでと異なるメカニズムによって交互累積膜を崩壊させる検討を行った。 PBAは過酸化水素と反応し,フェノールへ変換される。PVA/PBA-Ins交互累積膜に過酸化水素を作用させ,PBA部位がフェノールへ変換できれば,この交互累積膜は崩壊すると考えられる。また,グルコースオキシダーゼ(GOx)を用い,Glcを酸化すると同時に生じる過酸化水素を利用すれば,Glcによって交互累積膜の崩壊が促進すると期待される。 交互累積膜の作製,崩壊の評価には水晶振動子ミクロバランス(QCM)法を用いた。PVA溶液とPBA-Ins溶液にQCM電極を交互に浸し,これを5回繰り返し(PVA/PBA-Ins)5とした。この交互累積膜を10 mM 過酸化水素に浸すと,最初のPVA層以外の部分が1時間のうちに崩壊した。 次に,静電的相互作用で積層したポリアリルアミン(PAA),GOx,PBA-Insを含む,PAA/GOx/PAA/PBA-Ins/(PVA/PBA-Ins)4を作製し,10 mM Glc溶液に浸した。するとエステル結合で累積された部分が,2時間で40%程度崩壊した。この結果よりGlc応答性インスリン放出システムとしての新たな可能性を示せたといえる。
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