研究課題/領域番号 |
16K08204
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
西村 千秋 帝京平成大学, 薬学部, 教授 (70218197)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 天然変性蛋白質 / NMR / 残存構造 / 折り畳み / オリゴマー / 蛋白質間相互作用 / 変性 / アミロイド |
研究実績の概要 |
α-シヌクレインは天然変性蛋白質であり、本研究では残存構造の解析を行ってきた。アミドプロトン交換などにより、家族性パーキンソン病に見られるA30PとA53Tの残存構造に違いがあるかを調べてきたが、その違いが今回少しはっきりしてきた。温度を15℃の一定条件でこれまで解析してきたが、二つの変異体の構造の結果はほぼ同じだった。しかし温度を変化させた測定法にすると、二つの変異体の結果に違いが見られた。A53Tの方の残存構造が、温めた時に多くあるように観測された。 アミドプロトン交換を、交換の起こる割合とその速度定数に分けて解析した。Cドメインでの交換の割合を25℃と15℃で比べると、A53Tの方が野生株よりも25℃での交換の起こる割合が大きかった。また交換速度定数kexで比較すると、NドメインとCドメインにおいて速度定数の比が小さくなる残基がA53Tで顕著に見られた。このように15℃においての観測だけではA53Tと野生株の違いは少ないが、温度を変化させ測定するとA53Tは野生株よりも高温で安定化する構造が、特定領域で存在することがわかった。この結果はこれまでに示した15℃でのアミドプロトン交換の結果よりも変異体間の違いが顕著であり、NドメインとCドメインの相互作用の可能性も示した。高温で安定と考えるのは一般に難しいが、2量体を形成しながら相互作用して構造形成する場合に、この仮説が考えられる。A53T変異によって近くのβヘアピン構造が速くに形成され、引き続いてNAC領域のβ構造も速くに形成されることが考えられた。残存構造解析より、A53T変異はアミロイド構造形成を野生株よりも速くにさせると結論した。 一方、A30Pでは25℃と15℃での交換速度定数の比が野生株よりも40-60番とCドメインの領域において若干高かった。このことはA30Pのアミロイド形成は野生株よりも遅いことを支持する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
α-シヌクレインの天然変性蛋白質中に存在する残存構造の違いを区別することは容易ではなかった。本研究では温度など条件を変え、データ処理の分析方法を工夫して変えることによって、A53T > WT > A30Pという含まれる残存構造の量の順序を明らかにしてきた。この残存構造の順がアミロイド構造形成の速度の順序と対応している。準安定化されたA53Tは、Φ値解析を含め速度論的な解析をする上でよい材料になる。さらに温度を変えるとアミドプロトンの交換速度が構造依存的に変わったので、温度ジャンプの速度論的な実験も面白いことがわかってきた。 他の変異体であるα-シヌクレインのV118Aの構造解析も現在進行中である。化学シフトの値から118の領域と50の領域が天然変性状態であるにもかかわらず、空間上少し近い関係にある可能性が示された。さらにA30P変異が115番領域の化学シフト値を変化させる化学シフト摂動も示されている。つまりα-シヌクレインには溶液中において2量体構造の形成の可能性がある。V118A変異体では、残存構造があると考えられたCドメインの構造に対して、β構造形成が不利となるようなバリンからアラニンへの変異を行い、残存構造が減少するかを観測してきた。これらV118A使用も含めて速度論的に構造形成過程を今後解析する。 天然変性部位を持つp24カプシド蛋白質のNドメインも、現在動的構造解析中である。ループ4-5領域はシクロスフィリンAとの結合部位であり、結合していない時にはN末端とC末端と同じくらいの極めて大きな揺らぎ構造を持つことがわかっている。ターン構造を不安定化するプロリンの変異を行い、シス-トランス異性体を形成することができていたプロリンの前のペプチド結合を、トランス配位だけとれるようにアミノ酸を変異させ、動的構造への影響をモデルフリーのオーダーパラメタ―の解析法で観測してきた。
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今後の研究の推進方策 |
1)今後は天然変性蛋白質の折り畳み機構の速度論的な解析と、さらに天然変性蛋白質のNMRによるシグナル帰属法の開発などを行っていく予定である。共同研究を行っているβラクトグロブリンの折り畳み研究も順調に遂行されており(Sakurai et al., 2017)、本研究でも取り入れていく。 2)速度論的な研究を成功させるには、野生株だけの扱いでは難しいので、効果的な変異体の使用が必要である。 3)上述のようにアミドプロトンの交換速度と、温度依存性を組み合わせた実験系は有用だと思われる。アミドプロトン交換速度は、pHやサンプル調整条件に敏感に影響を受けるので、温度だけを変えて測定する場合には、正確にその変化の値を求めることができる。さらに温度変化の実験では、範囲内であれば可逆的な系として扱える。今後は温度変化の実験を有効に使って、速度論的な実験系を組み立てていく。 4)局所的な天然変性部位の構造変化をみるために、p24カプシド蛋白質の変異体の作成を試みている。へリックス領域などにおける2次構造変化ほどの大きな構造変化は誘起できないが、天然変性ループ領域の揺らぎ構造の変化を観測できている。
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次年度使用額が生じた理由 |
α-シヌクレインのアミロイド線維の伸長を測定するために、アミロイド線維に特異的に結合し蛍光を発するチオフラビンTやコンゴレッド測定用の蛍光分光計の購入を考えている。
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