本年度は、昨年度までに構築したビール中のデオキシニバレノール(DON)およびデオキシニバレノール配糖体(DON3G)の液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)による同時分析法を利用し、実試料の測定を行った。測定対象には、国内で入手可能な7か国9検体のビールを用いた。 その結果、9検体中7検体からDONが検出され、その検出濃度は定量下限値~70.3 ng/mLであった。また、DON3Gは、9検体中8検体から検出され、その検出濃度は定量下限値~203.9 ng/mLであった。定量値の妥当性を評価するため、トリメチルシリル誘導体化後にガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)で測定した定量値と比較を行った。横軸に本法(LC-MS/MS)でのDONの定量値、縦軸にGC-MS法でのDONの定量値をプロットしたところ、その近似直線は、傾きが0.81、相関係数が0.991であり、本法を用いた際のDONの定量は、妥当性が高いと推察された。さらに、DONとDON3Gにおいて検出濃度の相関性があるか検討したが、相関は認められなかった。すなわち、これまでのDONのみを対象とした汚染実態の解明や曝露量評価では、DONの曝露量を過小評価してしまうことが明らかとなった。 そこで、実際に本分析法で測定したビールを用いて、曝露量評価を実施することにした。国民健康・栄養調査の結果より、男性の平均ビール摂取量は113.3 g/dayと報告されている。曝露量評価として体重67 kgの成人男性が中ジョッキ一杯を飲んだと仮定すると、DONのみの曝露量では耐容一日摂取量(TDI)を超える検体は無かったものの、DON3Gとの共曝露量では、TDIを超える検体があった。今後の曝露量評価には、配糖体を勘案した分析法が求められることが明らかとなった。
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