平成29年度の検討では、Indium 111による放射標識体を用いて、放射活性を指標に測定を行った。平成30年度の検討では、固相抽出カートリッジを用いて、試料の精製を行うことで、LC/MSによる測定が可能となった。そこで、鼻腔内投与後の脳内移行動態を再検討した。鼻腔内投与後の血中濃度は静脈内投与時と比較して低かったが、脳内濃度の大小関係は逆転し、鼻腔内投与時の脳内濃度が高かった。特に、嗅球における濃度が高く、CPN-116が鼻腔から脳内に効率よく移行していることが明らかとなった。さらに、静脈内投与時のデータと併せて、速度論解析を行ったところ、鼻腔内投与後に脳内に移行したCPN-116のうち、75%以上は血液を介さず、鼻腔から直接、脳組織に移行していることが明らかとなった。 次に、脳移行性の改善を目指して、剤形修飾と製剤添加物の利用を試みた。これまでの研究では、CPN-116を溶液として鼻腔内投与したが、粉末投与として投与したところ、溶液製剤に比べて、CPN-116の脳内濃度が増大することが明らかとなった。CPN-116が溶解する鼻粘膜表面の液体の体積は少ないと考えられるが、粉末として投与することで、溶液製剤に比べて、粘膜表面における濃度が高まった結果と考えられた。さらに、粉末製剤にヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を添加した。HPCは、結合剤として汎用される製剤添加物であるが、水に溶解すると、溶液の粘性が高まり、CPN-116の鼻腔内滞留性の改善を期待できる。HPCを含む粉末製剤を鼻腔内投与し、その投与後60分後の脳内濃度を測定したところ、HPCを含まない対象粉末製剤と比較して、HPC含有粉末製剤投与時の脳内濃度が優に高いことが明らかとなった。製剤学的な工夫により、鼻腔内投与による脳内送達を改善できることが明らかとなった。
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