研究課題/領域番号 |
16K08209
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
鈴木 茂生 近畿大学, 薬学部, 教授 (00154542)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アフィニティーキャピラリー電気泳動 / インキャピラリー酵素反応 / 糖タンパク質糖鎖解析 / 逐次反応型キャピラリー電気泳動 / 濃縮キャピラリー電気泳動 / インキャピラリー化学反応 / ハイスループット分析 / 糖鎖解析デバイス |
研究実績の概要 |
キャピラリー電気泳動(CE)は100種類を超える様な複雑な試料混合物を数分から数十分で分離できる高い分離能を有する。また、CEは分離液に単純な緩衝液を用いるので、試料導入部を酵素反応場として利用できる。このようなCEの特性に着目し、以前より糖タンパク質糖鎖の分離にレクチンとのアフィニティー分離を組み合わせた部分導入CE法を開発し、糖鎖の分離と構造情報を同時に得られることを示したが、今回はさらに糖鎖分解酵素であるエキソグリコシダーゼを用いるオンライン消化法の開発を試み、糖鎖解析に必要な全てのエキソグリコシダーゼについて、キャピラリー内で完全消化できる方法を開発できた。レクチンは市販品だけで40種類あり、これに7種類のエキソグリコシダーゼによる消化条件が加わったことで、酵素反応前後の分離データを網羅的に解析することで、従来の質量分析法では解析が困難とされている糖鎖の結合様式や分岐構造などの詳細を捉えることが可能であることを証明した。これらの方法を組み合わせることで、特定の糖鎖や糖鎖群を捉えることも可能となった。これら酵素反応は、最大4種類までのレクチンやエキソグリコシダーゼを逐次導入することができる上、反応の順番も選択できるので、含量として0.1%未満の微量存在する糖鎖に対しても特異的な検出が可能であることがわかった。 これらの成果は本事業開始以前より、継続して、発表をおこなっているが、前年度について得られた研究成果は、論文2篇、学会発表4件として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エキソグリコシダーゼを使ったインキャピラリー酵素反応キャピラリー電気泳動を検討し、低電位印加法など、試料と酵素の接触時間を増加させる方法を組み合わせることで完全消化できることがわかり、原理的な基盤技術は整った。また、発表には至っていないがアレー型キャピラリー開発に向けて、装置面での検討も実施している。 実試料分析による解析を進めるなかで、新たに問題となったのは、市販のCE装置の試料導入量が最低試料容量の10万から100万分の1と極めて微量であり、試料の多くが無駄になる。したがって培養細胞の糖鎖解析などを行うには、試料量を今の1/100程度までに抑える必要がある。また、市販装置の多くはキャピラリーの両端が恒温槽からはみ出しており、本法で必要なキャピラリー入口の酵素反応場の温度調整ができない。そこで、アレー型装置の基本的な仕様として、キャピラリー導入部の温調と、試料必要量を微量化することが必要であり、その上でアレー装置へと発展させるべきであると判断している。 また、バイオ医薬品製造に伴う品質管理では、培養液中の糖タンパク質糖鎖をリアルタイムに近い状態で分析したいとの要求がある。そのためには糖タンパク質試料を1時間で解析するようなシステムを開発しなければならない。そこでキャピラリー内での化学反応による糖鎖高感度分析用蛍光標識法の開発も並行して着手している。
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今後の研究の推進方策 |
現在は細胞培養液に含まれる全ての糖タンパク質糖鎖の解析などに応用しているが、ピークの数が膨大であり、ピーク強度にも幅があり、手作業での糖鎖解析には限界を感じる。そこで、今までに蓄積した本システムにおける糖鎖の移動度および相互作用データベースと市販のピーク解析システムを組み合わせて、糖鎖のマッピング自動解析システムを開発したい。本研究を進めるために、既にレーザー加工機や微量溶液送液システムなどを購入した。また、以前にマイクロチップ電気泳動の研究を行った際に、蛍光検出システムや高電圧多電源切替装置を完成させた経験もある。現在はArduinoをベースとした安価なPC制御型I/Oデバイスを自作し、温調や濃縮に関する様々なプロトタイプを作製している。本事業の要件を充足するシステムを完成させた上で業者等に依頼し、将来的な本システムの製品化も検討したい。 そこで、①試料導入用試料濃縮デバイス、②濃縮試料導入デバイス、③キャピラリー全長温度調整デバイス、④酵素、試薬、泳動液等の高精度導入デバイスを作製し、最終的には組み込み式の高圧電源装置と組み合わせて装置を完成させるべく、作業を進めている。 また、新たに糖鎖をオンラインで高感度蛍光検出するために、酵素反応の経験を活かして、キャピラリー内に蛍光標識用試薬類を導入することで、糖鎖を自動的に蛍光標識して分析できるシステムを構築するための、基礎的な研究にも着手しており、完成した段階で本事業に組み入れることで、全自動糖鎖解析システムへの応用を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は8万円ほどが繰り越しとなった。それは年度末に旅費の申請を行ったためであり、年度末の物品申請を控えたためである。次年度の予算額30万円と合わせた計38万円については、次年度の計画である、装置の開発および酵素等の購入費用に充当する予定であり、最終年度の額としては不足しても、余ることはない。
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