キャピラリー電気泳動(CE)は高い分離能を有する反面、分離した成分を分取することは難しい。また研究者が対象とする生体由来の糖タンパク質糖鎖は生体内において、小胞体からゴルジ体に分布する様々な糖鎖合成・分解酵素の協奏的な作用によって合成されるので糖鎖の種類は多い上に濃度の幅が大きいことが知られる。疾病などによる生体の変化に伴って糖鎖生合成が影響を受けることが知られるが、糖鎖分布のわずかな差異として観察されることも少なくない。従ってCEを糖鎖の網羅的な解析に利用する場合は、糖鎖の部分構造を認識して結合するレクチンや糖の加水分解酵素であるエキソグリコシダーゼなどを用いて、分離された各ピークの移動や消失を定量的に解析し、各糖鎖の移動度データベースと比較し、これらを総合的に判断して、各ピーク成分の同定を行うことになる。 最終年度を迎えるに当たり、現在は次の2項目について本法の有効性を検証している。一つは、確認したい糖鎖群の構造の違いに着目し、判定に適した酵素群を逐次(連続)導入した後で分離を行うことにより、糖鎖の配列などを区別できるかを調査している。第二に、培養細胞より調製した膨大な種類の糖鎖混合物について、レクチンやエキソグリコシダーゼの部分導入電気泳動を適用して糖鎖解析が可能かどうかの検証を行っている。特に複合型糖鎖では、分岐鎖の構造が同一であるため、レクチンなどを使って詳細に解析を行っているが、報告されているレクチンの特異性では説明できないデータも得られており、レクチンの専門家への問い合わせを計画している。 アフィニティー専用、すなわちキャピラリーの一部を酵素反応用に37℃前後で保つような電気泳動装置の開発を行っているが、完成できていない。しかし温度調節装置、高圧電源、検出ユニットをすでに入手しているので、今年度中には実現するように努力している。
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