研究課題/領域番号 |
16K08210
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
佐久間 信至 摂南大学, 薬学部, 教授 (80388644)
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研究分担者 |
毛利 浩太 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (30723697) [辞退]
馬場 昌範 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (70181039)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ワクチン / 粘膜免疫 / インフルエンザウイルス / 膜透過ペプチド / オリゴアルギニン固定化高分子 |
研究実績の概要 |
研究代表者らは、膜透過ペプチドのオリゴアルギニンを側鎖に化学結合させた新規高分子を創製し、ウイルスや細菌の遺伝子多様性を克服する世界初の粘膜投与型ワクチンのアジュバントとしての同高分子の臨床応用を目指している。これまで、アルギニンのD体の8量体であるD-オクタアルギニンを生体非分解性のN-ビニルアセトアミドとアクリル酸の共重合体(PNVA-co-AA)に固定化した高分子を中心に研究を進め、インフルエンザウイルス抗原とともに同高分子をマウス鼻腔内に4回投与すると、血液中及び鼻粘膜上に抗原特異的なIgG及び分泌型IgAがそれぞれ誘導されること、同IgAは投与株以外のウイルス株に交差反応すること、免疫誘導されたマウスは投与株に感染しないこと、などを実証してきた。今年度はまず、本技術の臨床応用に際して障害となる2つの要素、すなわち、PNVA-co-AAが生体内で分解されないこと、4回投与は非現実的であること、の解決に取り組んだ。その結果、ブースティングのタイミングを最適化することにより、生体に含まれるヒアルロン酸を支持体とする生分解性のテトラグリシンL-オクタアルギニン固定化ヒアルロン酸とインフルエンザウイルス抗原の2回投与後に得られる抗体価は、D-オクタアルギニン固定化PNVA-co-AAと同抗原の毎週4回投与後に得られる抗体価と同レベルに達することを明らかにした。誘導された分泌型IgAは、ウイルス株の亜型を超えた交差反応性を示した。また、高分子支持体の変更により、細胞毒性が低下した。次に、D-オクタアルギニン固定化PNVA-co-AAによる免疫誘導機構の解明を試みた。その結果、同高分子は抗原の鼻粘膜滞留性を延長し、樹状細胞や粘膜上皮細胞による抗原の取り込みを促進することで免疫活性を増強することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の計画は、オリゴアルギニン固定化高分子による免疫誘導条件の最適化及び免疫誘導機構の解明である。前者については、同高分子の生体分解性材料への変更と投与回数の削減に成功し、免疫誘導条件を最適化するとともに、本技術の臨床応用に向けて大きく前進した。平成29年度に実施予定の感染実験では、当初、不活化インフルエンザウイルス株を抗原として用いる計画であったが、研究分担者の鹿児島大学難治ウイルス病態制御研究センターの馬場昌範教授と協議し、より早期の臨床応用を目指して、臨床で使用されているインフルエンザHAワクチンに変更する方向で調整することとなった。後者については、生体非分解性のD-オクタアルギニン固定化PNVA-co-AAによる免疫誘導機構に関する多くの知見を得た。今後、粘膜アジュバントを生分解性のテトラグリシンL-オクタアルギニン固定化ヒアルロン酸に変更して研究を進めることから、本ヒアルロン酸誘導体についても免疫誘導機構を同様に検証する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、感染実験を通して、投与株と異なるウイルス株に対する感染予防効果を実証する。ウイルス抗原は臨床で使用されているインフルエンザHAワクチン、膜透過ペプチド固定化高分子は生分解性のテトラグリシンL-オクタアルギニン固定化ヒアルロン酸を最優先とする。ウイルス抗原投与群(コントロール)、ウイルス抗原及び膜透過ペプチド固定化高分子投与群の2群で感染実験を行う。感染実験は、投与株と同じウイルス株に対する感染実験で過去に委託実績のある北里環境科学センターで実施する方向でこれから調整する。感染実験の詳細については、研究分担者の鹿児島大学難治ウイルス病態制御研究センターの馬場昌範教授と十分に議論して確定する。感染実験を成功に導き、ウイルスの遺伝子多様性を克服する画期的な粘膜投与型ワクチンのアジュバントとなることを実証する。また、連携研究者が所属する(株)ADEKAライフサイエンス材料研究所と協働し、本技術の事業化を目指して、テトラグリシンL-オクタアルギニン固定化ヒアルロン酸のGMP製造やGLP毒性試験など、レギュレーション対応の検討も開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度研究計画のオリゴアルギニン固定化高分子による免疫誘導条件の最適化に関する研究が失敗することなく順調に進行するとともに、免疫誘導機構の解明に関する一部の研究を科研費が支給される2016年6月前に別予算で実施していたため。
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次年度使用額の使用計画 |
感染実験の委託費、ウイルス抗原や抗体価測定試薬などの消耗品費、委託実験先との打ち合わせに際しての旅費などに使用する。
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