研究実績の概要 |
本研究は、難吸収性物質に分類される医薬品候補化合物や既存の薬物(バイオ薬物およびEfflux transporter基質である低分子薬)および薬物担体(ナノ粒子)の経口創薬に有効活用できる生体膜透過デリバリー基盤技術を確立することを目的とした。昨年度までに、CPPsの構成アミノ酸であるアルギニンモノマーが、それ自身でも十分なインスリン消化管吸収促進効果を示すことを見出し、in vivo経口投与実験によりその効果を実証し、特許を出願した。その研究の過程で、CPPsがその作用を発現する際にアルギニンに加えて、鍵となる構成アミノ酸といわれているトリプトファンについても検討を加えた結果、当初予想していた以上に強い吸収促進効果があることが確認された。トリプトファンにおいては、インスリンのみならず、数種のバイオ医薬の消化管吸収性を飛躍的に高めることが動物実験において新規に見出され、この結果を特許に追加することができた。今年度は早期臨床開発の可能性がより高いトリプトファンを対象として、バイオ医薬の消化管吸収促進作用の応用性ならびに安全性について詳細に検討をした。トリプトファンは、インスリン、GLP-1およびExendin-4の消化管吸収を著明に増加させる一方、1)粘膜や細胞傷害性は認められず、2)光学異性体で作用に違いがあり、3)細胞実験ではin vivoの効果が再現できない、4)Tight junctionの開口作用はない、ということを明らかにした。一方、難吸収性低分子に対する研究では、代表的CPPであるD-Penetratinが分子量1,000以下の低膜透過性薬物(ビンクリスチン、メトトレキサート、ザナミビル、リセドロネートおよびメトホルミン)の膜透過性を上昇させることが明らかとなり、その強さは分子量と良く相関する傾向が示された。
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