研究課題/領域番号 |
16K08214
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
山口 健太郎 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (50159208)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 結晶スポンジ / レーザー脱離イオン化 / 単結晶X線構造解析 / 直鎖状共役ene化合物 |
研究実績の概要 |
本年度は,結晶性細孔錯体のレーザー脱離イオン化による超高感度微量有機化合物分析法の確立に関し詳細に検討した.すなわち,まず初めに,LDI法としての特徴を調べるために両末端にphenyl基を有する直鎖状共役ene化合物(二重結合数1~3)の取り込みを行った.その結果,すべてのene化合物がCS内へ取り込まれたことを単結晶X線構造解析により確かめた.これらの単結晶をLDI法によりイオン化を試みたところ,全ての結晶において取り込まれた化合物由来のイオンピークを与えた.一方、DHB(2,5-dihydroxyl benzoic acid)を用いたMALDI法では化合物によってホットスポットの分布が異なっていた。このことから,CS-LDI法では化合物が適切に取り込まれた場合ゲスト分子のイオンピークを検出できることを示した. 次にゲスト量とイオンピーク強度の相関が検討できるか調べた.取り込み既知化合物であるanthracene(AN)を用いる際に結晶学的に追跡するため,重原子であるBrを二つ導入した9,10-BrANを用いた.CSに対して1 eq, 10-3 eq, 10-6 eqと取り込み濃度を変化させ取り込ませた結晶の構造解析行った後,LDI法を行った.構造解析からは1 eq.の条件において9,10-BrANの存在を確かめた.10-6 eq.では溶媒であるcyclohexaneが含まれている様子が観測された.一方,10-3 eq. では重原子由来と考えられる電子密度が観測されたが構造解析に至らなかった.LDI法では1 eq., 10-3 eq.において,9,10-BrAN由来のイオンピークが観測された.しかし,単結晶X線構造解析から9,10-BrANが定量出来ないため相関を見出すことはできなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究より,結晶スポンジに取り込まれた分子はいずれも効率よくレーザー脱離イオン化が進行し,分子イオンが検出されることを見出している.ゲストの取込料とイオン量との相関については未だ良好な結果は得られていないが,定量NMRを併用することにより精査する計画である. 研究実績の概要に記載した実験に加えて,piribedilに着目してCS法に基づく単結晶X線構造解析を行い,CS-LDI MSからも分子構造情報を得ることを目指した.構造解析から,独立分子として三つのPiribedilを観測し,これらのうちのひとつは骨格分子に巻き付くようにV字に折れ曲がっていることがわかった.また,CS-LDI MSから分子イオンピークを観測しただけでなく,複雑なフラグメンテーションを観測することができた.このフラグメンテーションから骨格である1,3-benzodioxoleのイオンピークが観測された.既存法である電子イオン化(EI)法と類似した点があるのでフラグメンテーションのデータベース解析から骨格構造を類推できると考えられる. 以上より,CS-LDI MSはゲスト包接結晶の単結晶X線構造解析において解析が困難であるとき,LDI法による分子構造解析から情報を補うことで解析できる可能性が示唆された.これらのことより概ね当初の目的を達成しつつあると考える.さらに,同時に未知化合物の構造解析の可能性を示していることから、本手法のさらなる応用について検討する.
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではイオン化機構解明に向けて,CS-LDI法により,単一結晶のX線構造解析による相互作用評価とイオン強度評価を行い,分析種とCSマトリクスの量論と分析種の骨格構造や官能基によるイオン化効率の違いについて定量的に議論することを目的としている.同時にCSマトリクス/分析種の相互作用の種類を考慮してイオン化効率の定量化を達成するため実験を行ってきた. 今後,さらに異なる官能基を導入した分析種について同様の手順にてCS-LDI法を行い,LDI条件を同一にし,イオンピーク強度を分析種間で比較する.分析種に存在する相互作用については単結晶X線構造解析から明らかにし,量論については単結晶X線構造解析の結果と合わせて,結晶スポンジからの分析種抽出によるNMR法によって数を求め,分子数の規格化を行い,イオン化効率について議論する. 結晶スポンジ内へ分析種を取り込んだ場合,細孔内において,平面性分子であればπ-π相互作用,鎖状の不飽和結合化合物であれば,π-πやCH-π相互作用が生じるといった知見を元に相互作用を明らかにする.また,取り込み条件における分析種濃度を下げることで結晶スポンジ内分析種の分子数を制御し,取り込まれた量とイオンピーク強度の実験値から『横軸:分子数,縦軸:イオン強度の相関(定量法の確立)』を得て,濃度との相関を明らかにする.また,分析種に存在する相互作用の数や強さが相関に対してどう影響するか調べる.さらに誘導体について異なる相互作用の有無を含めて相関への影響を調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の課題であるMALDI質量分析において測定実験に供する本学部のFTICR MS装置のターゲットが垂直導入型であるため,結晶スポンジのレーザー脱離イオン化に向かないことがわかった.また本装置にはイメージングシステムが未装備でるため,単結晶のどの部分からイオンが生成しているか判定できない.従って,本年度は当初見込まれた本学における装置の使用関連経費の支出が発生しなかった.そこで名古屋工業大学大型設備基盤センターに装備されているしイメージング可能な質量分析装置を使用させていただくため,受託試験をお願いする.次年度はこの測定費用が見込まれるため,次年度使用額はこれに充てる予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
一般的な結晶スポンジ作成のための試薬および溶媒,ガラス器具類などに加えて外部(名古屋工業大学)測定のための試料調整費用器具類,特にMALDIターゲットプレートなどの高額消耗品を購入する予定.さらに結晶スポンジのX線解析に適した単結晶評価用の実態顕微鏡関連の消耗品や,X線解析装置関連消耗品の購入が予定される.
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