本研究課題では、酵素反応と2段階クリック反応を利用する特異的かつ効率的な新規O-GlcNAc化ペプチド濃縮法を開発し、それを基盤とする高感度O-GlcNAc化プロテオーム解析法の開発を目的とする。また、開発した解析法を糖尿病モデル動物に応用し、糖尿病におけるO-GlcNAc化修飾の役割を明らかにすることも目的とする。 平成30年度は、所属機関に新規導入されたnanoLC-ESI-MS/MSシステムを用い、「2段階クリック反応を利用した新規O-GlcNAc 化ペプチド濃縮法の開発」を継続して実施した。しかしながら、チオールジスルフィド交換を利用した従来法と比較し、アジドビーズを用いた本濃縮法により特異性および濃縮効率の向上を達成することができなかった。 そこで、従来法を用いて「糖尿病モデル動物への応用」を実施した。2型糖尿病モデル動物であるGoto-Kakizaki(GK)ラットと正常Wistar ラットの腎臓から抽出したタンパク質をサンプルとし、nanoLC-ESI-MS/MSシステムによる網羅的プロテオーム解析および従来のO-GlcNAc化ペプチド濃縮法によるO-GlcNAc化プロテオーム解析を行った。その結果、GKラットで増加あるいは減少するタンパク質に加え、O-GlcNAc化タンパク質の同定にも成功した。 組織から内在性のO-GlcNAc化タンパク質を同定できたことで本分析法の有用が実証できた。今後、ホルマリン固定パラフィン包埋切片などヒト検体への展開が期待できる。また、糖尿病性腎症の病因・病態とO-GlcNAc修飾の関連を明らかにするうえで、新たなO-GlcNAc化タンパク質を同定できたことは研究の発展につながる重要な成果といえる。
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