炭素数が20より長い脂肪酸である極長鎖脂肪酸は,長鎖脂肪酸と比較して存在量は少ないが,多彩な生理機能を持ち,様々な疾患と関連していることが明らかになりつつある。涙液の表層に存在する油層はマイボーム腺から分泌される脂質(マイバム脂質)から成り,ドライアイの防止に重要である。マイバム脂質の主成分はコレステロールエステルとワックスエステルであり,これらの脂質には極長鎖脂肪酸が豊富に含まれる。本研究では,脂肪酸伸長サイクルの律速段階を触媒し,極長鎖脂肪酸の生合成に関与する脂肪酸伸長酵素ELOVL1のノックアウト(KO)マウスを作製し,マイバム脂質における極長鎖脂肪酸の役割を明らかにすることを目的とした。ELOVL1 KOマウスではマイバム脂質の長さが減少し,涙液蒸発亢進型のドライアイを発症することが明らかとなった。このことから,マイバム脂質の「長さ」がドライアイの防止に重要であることが示された。 マイバム脂質の極長鎖脂肪酸にはイソ型およびアンテイソ型の分岐鎖極長鎖脂肪酸が豊富に存在する。今年度は,分岐鎖極長鎖脂肪酸の生合成経路の解明に取り組んだ。ELOVL1を含む7つのELOVLアイソザイム(ELOVL1-ELOVL7)について,分岐鎖脂肪酸に対する伸長活性を測定したところ,ELOVL1,ELOVL3,ELOVL7が顕著な伸長活性を示すことを明らかにした。また,マウスの主要組織における分岐鎖脂肪酸の存在量について調べた結果,分岐鎖脂肪酸はほとんどの組織に存在することおよびマイボーム腺に最も豊富に含まれることを明らかとした。 国際共同研究として,ELOVL1遺伝子変異を持つ皮膚神経疾患患者の脂質分析およびELOVL1変異体の活性測定を行い,極長鎖脂肪酸の減少と変異体の活性低下を明らかにした。
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