研究課題/領域番号 |
16K08227
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山口 憲孝 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (80399469)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本年は、FOXA1のTGF-betaシグナルにおける役割について解析を行なった。TGF-betaは、細胞の分化や生存・上皮間葉転換などの様々な現象を制御するサイトカインであるが、上皮細胞では主にアポトーシスを促進することが知られている。TGF-betaによってアポトーシスが誘導される細胞としては乳腺上皮細胞が知られており、乳腺の退縮にはTGF-betaが関わっている。しかし、乳腺細胞から発生する癌の乳癌細胞では、TGF-betaによるアポトーシスに抵抗性を示すことが知られており、この抵抗性が乳癌の進展や悪性化に関与している。従って、乳癌細胞におけるTGF-beta誘導性アポトーシスへの抵抗性の分子機構を解明することは、乳癌の治療薬開発に役立つと考えられる。本研究においては、乳腺の発達・退縮時における遺伝子発現の解析を行い退縮時に誘導されるTGF-betaと逆相関を示す遺伝子を探索し、FOXA1の発現が退縮時に大きく抑制されることを見出した。FOXA1のTGF-betaシグナルにおける役割についてはほとんど明らかになっておらず、本研究ではその解明を目的とした。まず、FOXA1発現を有するヒト乳癌細胞株MCF7を用い、FOXA1の発現をRNAiにて抑制した後にTGF-betaによって刺激した。その結果、FOXA1の発現抑制によってTGF-beta刺激によりMCF7のアポトーシスが促進することがわかった。その後の解析により、FOXA1の発現抑制によって転写因子SMAD3の活性化が上昇していることがわかり、FOXA1がSMAD3の抑制因子であることが明らかとなった。現在、FOXA1によるSMAD3抑制機構について解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、薬剤抵抗性を獲得した乳癌細胞において、FOXA1の発現消失が転写因子NF-kappaB活性化を誘導してIL-6の発現を促進し、乳癌幹細胞様形質を導いていることを明らかにし論文発表を行なった(Journal of Biological Chemistry, 2017)。本年度は、FOXA1が転写因子SMAD3の抑制を介しTGF-betaによるアポトーシスに対する抵抗性を誘導していることを明らかにし、現在、論文作成を進めている。さらは、FOXA1が乳癌細胞の上皮間葉転換にも関与していることを明らかにし、論文発表を行なっている(Biological and Pharmaceutical Bulletin, 2017)。このように、乳癌細胞におけるFOXA1の機能解明を進めており、概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、FOXA1によるSMAD3抑制の分子機構の解明を行い、論文発表を行う計画である。これまでは樹立されたヒト乳癌細胞株を用いた解析が主であったが、正常細胞や正常細胞の癌化におけるFOXA1の機能を解析するために、マウス乳腺細胞の初代培養系や移植系の構築を行いたい。その際に、レンチウイルスベクターを用いた遺伝子発現やRNAiを行う必要があると考えているため、これらの実験系の構築も行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入の際にキャンペーンなどの割引を利用することにより、消耗品費を予定額より節約することができたため未使用分が生じた。未使用分については来年度の消耗品費に充て、研究を推進させる予定である。
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