研究課題/領域番号 |
16K08228
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
濱崎 純 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80533588)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子生物学 / ユビキチン |
研究実績の概要 |
ユビキチン・プロテアソームシステム(UPS)は多様な生命現象の進行に必須な細胞内タンパク質分解系である。神経変性疾患ではユビキチン陽性の封入体や凝集体が観察され、UPSの破綻が細胞の恒常性維持や病態発症に深く関与すると考えられている。最近、申請者らがプロテアソーム機能調節因子の探索により同定したc6orf106をHsp70と会合する新規ユビキチン結合タンパク質HUIP (heat shock proteins- and ubiquitin-interacting protein)と命名した。HUIPはショウジョウバエなどの多細胞生物に保存され、ショウジョウバエ複眼において易凝集性タンパク質を過剰発現させた神経変性病態モデルにおいてHUIP過剰発現により病態の軽減、ノックダウン(KD)による病態の増悪化を見出したことから、本研究では、HUIPの生理的役割と易凝集タンパク質分解調節機構を明らかにすることによる病態発症機構の理解を目的とした。 また、ヒト培養細胞において易凝集性タンパク質(変異SOD1やTDP43)を発現させると、その大半は不溶性画分に存在するが、HUIPの共発現により可溶性画分におけるSOD, TDPの割合が増加した。このことからHUIPは易凝集性タンパク質の可溶化を促進する働きを持つことが予想され、変異SOD1, TDP43はプロテアソーム依存的に分解されることを確認したことから、HUIPによる可溶化促進効果がUPSによる分解を促進し細胞毒性を抑制していると考えられた。 さらに、内在性マウスHUIPを検出できる抗体の作成に成功しイムのブロッティングや免疫染色による内在性HUIPの発現臓器を現在検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の準備段階におけるハエ系統についての知見を元に、生化学的な解析が予想外の進展を見せている部分もある事から、研究開始当初の予想よりも新規性の高い研究となる可能性を感じており、分子機構解明のための解析をより重点的に推進する事で研究目標を達成できると予想している。これまでプロテアソーム研究で主に用いられた出芽酵母ではHUIPは保存されていないことから、独自に同定した新規UPS因子であるHUIPの機能解明により多細胞生物特有の易凝集性ユビキチン化タンパク質の分解機構が新たに明らかになると考えられる。現在、これまでの解析結果について論文作成中であり、すでに十分な新規性の研究が達成できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝学的相互作用因子の探索を今後も進め、既に見出している経路の妥当性を検討するとともに、さらなる新規経路とのクロストークの発見を目指す。培養細胞によってHUIPの機能ドメインおよび相互作用因子会合領域を明らかにする。 ヒト培養細胞を用いてHUIPの機能に必須なドメインを明確にするためにHUIPが持つ各ドメインを欠損したHUIP変異体による易凝集性タンパク質の可溶化・分解促進効果を比較する。より厳密な検討のために、すでにCRISPR/Cas9システムにより樹立したHUIP KO細胞への様々なHUIPコンストラクトの過剰発現により易凝集性タンパク質分解への効果を検証する。 一方、ユビキチン化タンパク質の凝集体形成へのHUIPの関与も想定されることから、UPS阻害時のユビキチン陽性凝集体形成やUPS阻害後の凝集体解消へのHUIP過剰発現およびKDでの影響を検討する。 また、異なる易凝集性タンパク質を発現させた様々な種類の病態モデルに対する交配から、HUIPの効果が神経変性疾患に普遍的なものか特定の基質による病態に限定されるのか検証する。また、HUIPの各ドメインの役割を個体において検証するため、各種HUIPコンストラクトを過剰発現させたハエ系統を作成し病態モデルへの効果を検討する。 すでにHUIP TG, KOマウスを作製済みであるので、順次表現型解析を行い生理的条件下でのHUIPの機能を明らかにする。また、ALSモデルとしての変異SOD1 TGマウスとの交配も現在推進中であり、ハエで見られた病態への抑制・増悪効果をHUIP TG, KOマウスで検証する。これまでにHUIP TG,KOマウス共に通常飼育では顕著な異常は観察されないことから、変異SOD1 TGマウスとの交配や加齢・ストレスなどタンパク質凝集を促進する条件において明確な表現型が観察できると想定している。
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