研究課題
ユビキチン・プロテアソームシステム(UPS)は多様な生命現象の進行に必須な細胞内タンパク質分解系である。神経変性疾患ではユビキチン陽性の封入体や凝集体が観察され、UPSの破綻が細胞の恒常性維持や病態発症に深く関与すると考えられている。最近、申請者らはプロテアソーム機能調節因子の遺伝学的探索によりHsp70と会合する新規ユビキチン結合タンパク質c6orf106を同定した。c6orf106はショウジョウバエなどの多細胞生物に保存され、ショウジョウバエ複眼において易凝集性タンパク質を過剰発現させた神経変性病態モデルにおいてCG5445(ハエのc6orf106オルソログ)過剰発現により病態の軽減、ノックダウン(KD)による病態の増悪化を見出したことから、本研究では、c6orf106の生理的役割と易凝集タンパク質分解調節機構を明らかにすることによる病態発症機構の理解を目的とした。また、ヒト培養細胞において易凝集性タンパク質(変異SOD1やTDP43)を発現させると、その大半は不溶性画分に存在するが、c6orf106の共発現により可溶性画分におけるSOD, TDPの割合が増加した。このことからc6orf106は易凝集性タンパク質の可溶化を促進する働きを持つことが予想され、変異SOD1, TDP43はプロテアソーム依存的に分解されることを確認したことから、c6orf106による可溶化促進効果がUPSによる分解を促進し細胞毒性を抑制していると考えられた
2: おおむね順調に進展している
ハエでの遺伝学・生化学的な解析から、c6orf106が果たす易凝集性タンパク質の分解調節機構および生理的な重要性についての報告を2018年Molecular and Cellular Biology誌に論文発表することができた。哺乳類培養細胞を用いた解析についてはc6orf106の分子機構について新たな知見が得られつつあり、易凝集性タンパク質への具体的な作用機構についてさらなる研究の発展が見込めることから十分に新規性・発展性を備えた研究に拡大しつつある。これまでプロテアソーム研究で主に用いられた出芽酵母ではc6orf106および類似分子は保存されていないことから、独自に同定した新規UPS因子であるc6orf106の機能解明により多細胞生物特有の易凝集性ユビキチン化タンパク質の分解機構が新たに明らかになると考えられる。
ハエでの一連の解析結果を論文報告したことから、今後は哺乳類での解析により注力する。c6orf106の機能ドメインおよび相互作用因子会合領域を明らかにするため、ヒト培養細胞を用いてc6orf106の機能に必須なドメインを明確にするためにc6orf106が持つ各ドメインを欠損したc6orf106変異体による易凝集性タンパク質の可溶化・分解促進効果を比較する。より厳密な検討のために、すでにCRISPR/Cas9システムにより樹立したc6orf106 KO細胞への様々なc6orf106コンストラクトの過剰発現により易凝集性タンパク質分解への効果を検証する。一方、ユビキチン化タンパク質の凝集体形成へのc6orf106の関与も想定されることから、UPS阻害時のユビキチン陽性凝集体形成やUPS阻害後の凝集体解消へのc6orf106過剰発現およびKDでの影響を検討する。また、異なる易凝集性タンパク質を発現させた様々な種類の病態モデルに対する交配から、c6orf106の効果が神経変性疾患に普遍的なものか特定の基質による病態に限定されるのか検証する。すでに作製済みのc6orf106 TG, KOマウスについて表現型解析を行い生理的条件下でのc6orf106の機能を明らかにする。また、ALSモデルとしての変異SOD1 TGマウスとの交配も現在推進中であり、ハエで見られた病態への抑制・増悪効果をc6orf106 TG, KOマウスで検証する。これまでにc6orf106 TG,KOマウス共に通常飼育では顕著な異常は観察されないことから、変異SOD1 TGマウスとの交配や加齢・ストレスなどタンパク質凝集を促進する条件において明確な表現型が観察できると想定している。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 6件)
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