本研究の目的は、種々の生理活性物質、あるいは低分子化合物によるIgE非依存的なマスト細胞活性化のメカニズムを解明し、マスト細胞を標的とした新たな慢性炎症性疾患の治療薬開発のための基礎的知見を得ることである。平成30年度は以下の成果を得た。 1.MrgprX2のリガンド探索の過程で、皮膚組織に豊富に発現する生理活性ペプチドであるneuromedin Uがアゴニストとして機能することを見出した。 2.MrgprX2を安定発現するHEK293細胞株を樹立し、Ca2+シグナルによるハイスループットスクリーニングの系を作成した。 3.MrgprX2のアンタゴニストであるQWFはアゴニストによって阻害様式が異なることを見出した。 4.新規のGPR35アゴニストはいずれもラット腹腔マスト細胞における抗原刺激による脱顆粒応答を強く抑制することを見出した。 本研究を通じて、1)MrgprX2はsubstance Pやnueromedin Uといった生理活性ペプチドにをリガンドとしてマスト細胞のIgE非依存的な活性化を惹起すること、2)Mrgprの複数の遺伝子がマウスマスト細胞では発現しており、これは成熟、分化の過程で誘導され、またステロイド性抗炎症薬の標的となること、3)黄色ブドウ球菌δ毒素はに新規のシグナル伝達経路を介して脱顆粒応答を惹起すること、4)GPR35のアゴニストによる活性化は、マスト細胞の活性化応答を抑制すること、が明らかとなった。これらは、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎といった慢性炎症性疾患の発症機序の一端を解明するものであり、それらの治療法の開発にあたっての基礎的知見となる成果である。
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