研究課題/領域番号 |
16K08234
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
嶋本 顕 広島大学, 医歯薬保健学研究科(薬), 准教授 (70432713)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 早老症 / 細胞老化 / 間葉系幹細胞 / ウェルナー症候群 / p53遺伝子変異 / 皮膚潰瘍モデル |
研究実績の概要 |
WS患者由来線維芽細胞から樹立したiPS細胞を用いて病態解明を試みるべく、患者iPS細胞および健常者iPS細胞からMSCを樹立した。本年度は患者及び健常者iPS細胞から樹立したMSC (iMSC)を用いて、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行ない、既報のWRN遺伝子ノックアウトES細胞由来MSC (WRN-KO-MSC)と比較した。またWSCU01-iPSC13の継代初期と長期培養後においてp53遺伝子のゲノムシークエンスをおこなった。 その結果、マイクロアレイのGO解析では、正常とWSとの間で老化関連遺伝子発現に大きな差が見られたが、WRN-KO-MSCと比較すると、正常と2倍以上発現の差がある遺伝子の8割に相違が見られた。また、WSCU01-iPSC13の継代初期と長期培養後の両者でp53ゲノムシークエンスを行なったところ、長期培養後の株において機能喪失型のヘテロ接合子変異(c.527 G>T)が新たに見られた。以上から、WM21においてWSCU01-iPSC13の長期培養によるp53変異獲得が考えられた。WRN-KO-MSCとの比較では、遺伝子発現に大きな差があり、患者由来iPS細胞とWRN-KO-ES細胞は、WSモデルとして相互に異なる可能性が示唆された。 さらに、本疾患では難治性皮膚潰瘍が患者のQOLを下げる原因となっていることから、マウス皮膚潰瘍モデルにおいて、WS-iMSCが創傷治癒を促進するかどうか検討した。C57BL/6を麻酔して剃毛した背部左右に8 mmのパンチ生検を行って皮膚潰瘍を作成し、右側にマトリゲルに懸濁したWS-iMSCを付着させ、左側はマトリゲルのみとした。マトリゲルが凝固した後にテガダームで同部位を保護したが、覚醒後のマウスが激しく動き回りテガダームが剥がれ、マトリゲルが潰瘍部位に留まらなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
患者iPS細胞由来MSCの分裂寿命は健常者iPS細胞由来のものより短いとの予想の下に本研究を開始したが、これに反して患者iMSCの中には健常者iMSCよりも長い分裂寿命を呈したものがあった。その原因はp53遺伝子の突然変異の獲得であることを本年度の成果として明らかにした。この結果は、ウェルナー症候群患者の間葉系幹細胞が早期老化を解明するモデルであるとともに、ウェルナー症候群患者が肉腫を多発することから、間葉系組織由来肉腫の発症機構を解明するモデルの可能性を示している。 一方、マウスの皮膚潰瘍モデルを用いたiMCSの創傷治癒における治癒能力の検討では、技術的な問題に直面し実験を進めることが困難な状況となった。背部潰瘍部位のテガダームが剥がれ落ちる問題は来年度の課題であり、マトリゲルを患部に固定する方法として、マトリゲルの濃度やテガダームのサイズ等の検討を考えている。
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今後の研究の推進方策 |
健常者2株のiMSCが増殖停止に至ったPDLは26及び21であり、患者2株のiMSCが増殖停止に至ったPDLは 19及び 53であった。患者由来線維芽細胞の分裂寿命が健常者の半分程度であることを考慮すれば、症例数が少ないことなどがこの理由として考えられる。したがって、来年度はさらに分化誘導に用いる患者由来iPS細胞の株数を、他のウェルナー症候群患者由来線維芽細胞から樹立することによって増やし、また正常iPS細胞を用いてゲノム編集を行うことによって、疾患iPS細胞を樹立する計画である。 また、患者iPS細胞由来MSCの分裂寿命は健常者iPS細胞由来のものより短いとの予想の下に本研究を開始したが、これに反して患者iMSCの中には健常者iMSCよりも長い分裂寿命を呈したものがあった。ウェルナー症候群は染色体不安定性でがん多発疾患であり、とくに間葉系細胞由来の肉腫の発症が多く報告されていることから、分裂寿命が長い患者iMSCはウェルナー症候群の肉腫発症モデルとなりうる可能性があり、p53遺伝子の突然変異がその原因とである可能性が示唆された。来年度はこの点も考慮して研究を進める予定である。
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