研究課題/領域番号 |
16K08235
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山崎 尚志 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学系), 准教授 (20271083)
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研究分担者 |
南川 典昭 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学系), 教授 (40209820)
伊藤 孝司 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学系), 教授 (00184656)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スプライス / U1 snRNA |
研究実績の概要 |
カテプシンA(CTSA)は糖鎖分解に関わるリソソーム酵素で、その欠損は先天性代謝異常症であるガラクトシアリドーシスの原因となる.日本人のガラクトシアリドーシス患者の多くでCTSA遺伝子イントロン7の5'ssの3番目の塩基がaからgに変異している例が多く報告されている(cag/gtatggga→cag/gtgtggga.エクソン7/イントロン7).この変異によってスプライス異常が起こり、エクソン7を欠いたmRNAが産生されるためCTSAが欠損しガラクトシアリドーシスが発症する. スプライスにはU1 snRNAの5'末端(---guccauucaua 5')とmRNA前駆体5'ssとの塩基対形成が必要で、上述のスプライス異常は5'ssの変異によりU1 snRNAが結合できなくなったためである.申請者らはミニ遺伝子を用いた培養細胞モデル実験系により、mRNA前駆体との相補性が増すように塩基を改変したU1 snRNAを細胞に発現させれば、変異CTSA遺伝子から正常なmRNAを生じさせられることを明らかとしている.本研究では、改変U1 snRNAによるスプライス異常修復効果の向上を目指し、改変U1 snRNAの塩基配列の最適化と改変U1 snRNAの細胞内発現量の増加を試みた.その結果、5'末端を---GUCCACACCua 5'(大文字はCTSAイントロン7変異5'ssと相補な塩基)としたU1 snRNAが最も高いスプライス異常修復効果を示すことを見いだした.また、強力なエンハンサーやプロモーター下に改変U1 snRNAコード領域を挿入したプラスミドを作成しこれを細胞に導入した場合スプライス異常修復効果が認められなかったことからU1 snRNAの細胞内発現にはそれ自身のプロモーターが必須であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々の改変U1 snRNA発現プラスミドを作製し、それらの効果を検討した結果、CTSA遺伝子イントロン7の変異5'ss(cag/gtgtggga)に対して5'末端を---GUCCACuCaua 5'としたU1 snRNAではスプライス異常修復効果は全く観察されなかったが、---GUCCACAC*** 5'(*は種々の塩基)としたU1 snRNAでは程度の差はあるがどれもスプライス異常修復効果を示した.このことから、この変異遺伝子のスプライスにおいて、U1 snRNAとmRNA前駆体との間におそらく8塩基以上の連続した塩基対形成が必要であることが示唆された.この結果は、改変U1 snRNAを用いて他の遺伝子のスプライス異常修復を試みる場合にも非常に有用な知見である.一方、申請者らはヒトU1 snRNA遺伝子それ自身のプロモーターを用いて改変U1 snRNAの動物細胞発現を行っているが、これにCMVやSV40エンハンサーを導入する、あるいはCMVやSV40プロモーター下にU1 snRNAコード領域を挿入して改変U1 snRNAの細胞内発現を試みたものの、どちらの場合も発現量の増加は認められなかった.従って今後は細胞への改変U1 snRNA遺伝子の導入量の増加や細胞内での安定性を向上させることにより、その効果の増強を図る必要がある. 以上から、一部の試みは成功しなかったが、想定の範囲内であり、今後の研究の方向には影響しないことから「おおむね順調」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、ヒト組織への移行を目指したU1 snRNA発現ユニット作製のため、これまでで最もスプライス異常修復効果が高かった改変U1 snRNAを、研究分担者の南川らが確立したinterigent shRNA expression device(iRed)の作製技術を用いて作製する.iRedはRNA合成に必要な最小限のユニットを、プラスミドを鋳型としたPCRにより人工合成したものであり、修飾ヌクレオチドを取り込ませてヌクレアーゼ抵抗性を付与することも可能である.iRed作製法は既に確立されているので、現在用いている改変U1 snRNA発現プラスミドを鋳型とすれば作製できる状態である.iRed化した改変U1 snRNA発現ユニットのスプライス異常修復効果をCTSA変異ミニ遺伝子を用いた培養細胞モデル実験系、さらに研究分担者の伊藤が所有するCTSA欠損患者由来繊維芽細胞を用いて検証する予定である. 加えて、予備的な実験により、CTSA遺伝子イントロン7は他のイントロンに比べてスプライスされにくいことを見いだしている.スプライスはmRNA前駆体のエクソン/イントロン境界部位(5'ssや3'ss)だけでなく、エクソン内やイントロン内に存在するスプライス抑制配列によっても制御されている.アンチセンスオリゴヌクレオチドなどを用いてスプライス抑制配列の作用を阻害すれば、スプライスを起こりやすくすることが報告されている.従ってCTSA遺伝子イントロン7のスプライスを制御している配列を同定し、その配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドも併用すれば、改変U1 snRNAの作用を高めることができる可能性があり、これについても検討する予定である.
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