高密度リポタンパク質(HDL)の血中濃度が高いほど、動脈硬化性疾患のリスクは減少する。HDLは、末梢組織および動脈硬化病変からの余剰脂質(コレステロール、リン脂質)の引き抜き(脂質搬出反応)や、抗炎症作用、抗酸化作用など、様々な効果により抗動脈硬化的に作用する。本研究では、HDLの抗動脈硬化作用に関与することが示唆されているapoA-I binding protein(AIBP)について、その役割と生理的意義との解明を目的とした。 前年度において、リコンビナントAIBPをマウスに投与したところ、LPSで惹起される炎症反応を抑制する傾向にあることを明らかにした。そこで平成31年度(令和元年度)は、in vivoでの抗炎症効果についてより詳細に評価するために、リコンビナントAIBPの改良を行った。オリジナルのリコンビナントAIBPの血中濃度推移を確認したところ、4時間でほぼコントロールと同じレベルまで戻ることから、速やかに血中から消失していることが示唆された。そこで、AIBPの血中滞留性を上昇させることを目的として、ヒト血清アルブミン融合AIBPタンパク質を作製した。しかし、ヒト血清アルブミン融合AIBPタンパク質は、大腸菌による発現と精製は可能であったものの、安定的に保持することが難しいことがわかった。そこで方針を変更し、血中でアルブミンタンパク質と結合能を持つアルブミン結合ドメイン(ABD)を融合したリコンビナントAIBPを設計した。大腸菌でタンパク質を発現、精製することに成功し、ヒト血清アルブミン融合AIBPタンパク質と比較して安定であることが分かった。そこで、まずはその抗炎症効果について細胞を使って評価したところ、オリジナルのリコンビナントAIBPと比べて、ほぼ同程度の抗炎症効果を示すことが明らかとなった。現在はマウスでの評価を行なっている。
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