研究課題
興奮性・抑制性シナプス形成のバランス(E/Iバランス)を適切に維持することは神経回路網を正常に機能させていくために必須であり、その異常は自閉スペクトラム症(ASD)や統合失調症などの原因ともなる。シナプス形成を正に制御する機構については多くの解析がなされ、その実態がかなりの程度明らかにされているが、E/Iバランスを適切に制御するのに必要な、シナプス形成を負に制御する機構については不明な点が多い。我々は、IgSFに属するGPIアンカー型の細胞外タンパク質であるMDGAファミリー分子群がニューロリギンファミリー分子群と相互作用してその機能を抑制することによりシナプス形成を負に制御していること、また、その欠失によりE/Iバランスが崩れ、種々の行動異常が引き起こされることを見出し、解析を進めている。今年度は興奮性シナプス形成過多によりE/Iバランスが興奮側にシフトしたMDGA2欠失マウスのASD様行動異常について解析を進め、社会性コミュニケーション障害・固定的・反復的パターン・関心といったDSM-5の診断指針に合致する行動異常を確認し、そのASDモデルマウスとしての有用性を明らかにした。さらに、E/Iバランスを修正しうる薬剤の投与により、こうした症状の少なくとも一部が改善されうることが示唆された。また、MDGA1の欠失が脳の高次機能に及ぼす影響について解析を進めた結果、MDGA2とは逆にE/Iバランスの抑制側へのシフトと、これによる認知・行動異常がもたらされることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題とこれに先立つ研究課題により得られたMDGA2についての解析結果をまとめて公表するとともに(Neuron, 91, 1052-1068)、MDGA2欠失マウスのASDモデルマウスとしての有用性を確認した。また、MDGA1欠失マウスの解剖学的・電気生理学的・行動生物学的な解析を進め、その基礎的な表現形を明らかにした。
ASDモデルマウスとしての有用性が確認できたMDGA2欠失マウスを利用して行動薬理学的な解析を進めることにより、E/Iバランスを修正しうる既存薬から、そのASD様行動異常を正常化できる薬物を見出して解析を進める。また、MDGA1欠失マウスについても、その社会性行動異常をさらに精査するとともに、MDGA2マウスと同様の行動薬理学的な解析を試みる。
機器の故障により一部実験の延引を余儀なくされたため。
延引した実験の実施のために使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (3件)
Neuron
巻: 91 ページ: 1052-1068
10.1016/j.neuron.2016.08.016.
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http://first.lifesciencedb.jp/archives/14652
http://www.kagawa-u.ac.jp/files/4714/7330/1707/0908_kenkyuseika.pdf
http://www.med.kagawa-u.ac.jp/topics/other/yamamoto/